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ID番号 07456
事件名 配転命令無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 古賀タクシー事件
争点
事案概要  タクシー会社Yの小型タクシー乗務員として勤務し、タクシー乗務の他に得意先等への粗品の配布、配車の手伝い等も分担していたXが、Yではジャンボタクシーの需要増等により営業係(事務処理、配車、運行管理、ジャンボタクシーの乗務等)を補充すべき業務遂行上の必要性が生じていたところ、Xは小型タクシー乗務員としての売上成績が低迷していること、労働契約締結時に将来観光タクシーやジャンボタクシーに乗務することに拒絶反応を示していなかったこと、実際にジャンボタクシーに乗務したことがあったこと等から、営業係への配転命令を受けたが、性格的に向かないことを理由にこれを拒否し、その後は当日に乗務するタクシーの割当てがないこともあって配車の手伝いをしていたところ、再度営業係の仕事を命じられたが、これも拒否し、その後乗務係に復帰するまで営業係として就労しなかったことから、本件配転は本人の同意なくして命じられたもので無効であるとして、配転命令の無効確認とタクシー乗務員として勤務できなかった期間の賃金の支払を請求したケースの控訴審で、原審ではXの請求を認容していたが、Yの就業規則には職種限定の定めがなく、乗務員とそれ以外の従業員とを区別せず、業務の必要により配転を命ずることがある旨の規定があることから、XとYとの間で締結された乗務員としての労働契約においては雇用後相当期間経過後の経営権利上の諸事情に応じて、会社において業務上の必要があるときは、従業員の同意なくして配転を命ずる権限が留保されているものと解するのが相当であり、本件配転命令は、Yの業務の必要上合理性があり、Xに職務上、生活上、特段の不利益を被らせるものと認めることはできないことから、Yの裁量の範囲を逸脱し、権利の濫用になるとも認められないとして、Yの控訴が認容され、原審が取り消された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
裁判年月日 1999年11月2日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 352 
裁判結果 認容(原判決取消)、被控訴人請求棄却(上告)
出典 労働判例790号76頁/労経速報1737号26頁
審級関係 一審/07306/福岡地/平11. 3.24/平成9年(ワ)2895号
評釈論文 野川忍・ジュリスト1211号109~112頁2001年11月1日
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 控訴会社が労働契約を締結する際に作成する労働契約書には、乗務員向けのもの(表題は「労働契約書(乗務員)」)とそれ以外の従業員向けのもの(表題は「労働契約書(社員)」)とがあり、前者の労働条件欄には、業務内容・就業場所として「一般乗用旅客自動車運送事業用自動車の運転と付随する業務、会社の事業区域を根拠とした営業区域内」と不動文字で明記され、労働時間、賃金等の内容が具体的に記載されているのに対し、後者では、就業場所及び従事業務欄に内容を記載するようになっているほかは、就業規則等の定めによるものとされていることが認められる。そして、乗務係と営業係の勤務体系、賃金等の労働条件及び業務内容は、前記のとおり異なることからすれば、乗務係と営業係の従業員は、採用時点から職制が区別されており、その職務内容も異なるものというべきである。
 そうすると、本件命令は、乗務係の乗務員として採用された被控訴人を、営業係という異なる職務に就かせる配置転換を命じたものと認めるのが相当であり、〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 控訴会社の就業規則(〈証拠略〉)によるに、乗務員の職務の性質から特有のもの(例えば、無線の呼出しに対する応答、自動車運転免許証の携帯等)や、乗務員服務規程の遵守を定めた規定(一一条)のほかは、職種に限定した定めはなく、異動・出向に関する規定(一八条)においても「会社は業務の必要により、従業員に職務、職種、職場、勤務地等の異動、又は出向を命ずることがある。この場合、正当な理由なくこれを拒否することはできない。」と定められており、乗務員とそれ以外の従業員との間の区別はされていない。また、証拠(〈証拠略〉)によれば、控訴会社と被控訴人との間の労働契約においては、労働条件の詳細は就業規則によるものとされ、被控訴人は、その遵守を誓約していることが認められる。また、営業係の業務は、前記のとおりタクシー乗務と密接に関連するものであり、特に、控訴会社においては、ジャンボタクシーの乗務は主に営業係の担当とされていることにかんがみれば、控訴会社との間で締結される乗務員としての労働契約は、タクシー乗務以外の業務に一切就かせないという職種を限定した趣旨のものではなく、雇用後相当期間経過後の経営管理上の諸事情に照らして、控訴会社において業務上の必要があるときは、従業員の同意なくして配置転換を命ずる権限が留保されているものと解するのが相当である。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 従業員に対する配置転換の命令は、従業員の生活関係に多大の影響を与えるのが通常であるから、労働契約に準拠する場合であっても無制約に認められるものではなく、本件命令の効力に即していえば、控訴会社における業務の必要性と、同命令により被控訴人が被る職業上又は生活上の不利益を比較考量して、その効力を判断すべきであり、これが控訴会社の裁量の範囲を逸脱するものとして権利濫用に当たる場合には、本件命令は無効となるものと解するのが相当である〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 被控訴人を乗務係から営業係に配置転換する旨の本件命令は、控訴会社の業務の必要上合理性のあるものであり、被控訴人に職務上又は生活上、特段の不利益を被らせるものと認めることはできない。また、控訴会社の裁量の範囲を逸脱し、権利の濫用になると認めることもできない。