全 情 報

ID番号 07461
事件名 出資金払戻等請求控訴事件
いわゆる事件名 祥風会事件
争点
事案概要  医療法人Yの理事Aの遺族Xら(妻及び子三人)が、Aの死亡により、Yが全役職者を被保険者とする勤労団体保険契約に加えて、Aらを含む理事三名を被保険者、Yを受取人として締結していた勤労保険契約に基づき、保険金を受領したところ、本件保険契約締結時に、Aら理事は「保険金の全部又は相当部分は退職金又は弔慰金の支払に充当する」旨の書面(生命保険契約付保に関する規定)に被保険者として記名押印していたにもかかわらず、Aの遺族に退職慰労金が支給されなかったことから、(1)退職慰労金の支払及び(2)出資金払戻しを請求したケースの控訴審で、原審はXの請求を棄却していたが、(1)については、保険金を退職慰労金として支給する旨の合意が成立し(なお、勤労団体保険契約については、合意成立を否定)、理事ら三名の署名押印は理事会の承認があったものと認められるとして、保険金額からAの年払い保険料分を差し引いた額についてXの控訴が認容され、(2)については、Aの出資持ち分がYに譲渡された事実はないとして、出資金払い戻しにおけるXの控訴が認容されて、原審が取り消された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
商法674条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
裁判年月日 1999年11月17日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 1196 
裁判結果 一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働判例787号69頁
審級関係 一審/浦和地/平10. 2.20/平成6年(ワ)620号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 他人の死亡を保険事故として保険金を支払う、いわゆる他人の生命の保険契約は、保険制度が賭博又は投機の対象として濫用されたり、故意に被保険者の生命に危害を加えるなどの危険を誘発することを防止するため、被保険者の同意が契約の効力発生の要件とされている(商法六七四条一項)。太らは、本件勤労保険契約の更新に際し、前記1(二)の3の条項の記載がある「生命保険契約付保に関する規定」と題する書面に署名押印したのであるから、他人の生命の保険契約である本件勤労保険契約について、被保険者の同意があったことが明らかであるが、同書面には、右同意条項に加えて、前記1(二)の1及び2の条項、すなわち、この生命保険契約は被保険者たる従業員(職員)が死亡したことにより退職金又は弔慰金が支払われる場合に備えて締結されるものであり、同契約に基づき支払われる保険金の全部又はその相当部分は退職金又は弔慰金の支払に充当するものである旨の条項が記載されており、原審被告とAらは、右条項の記載があることを確認した上、同書面に記名押印ないし署名押印したのであるから、原審被告は、Aらが死亡したことによりAらに対し死亡退職金又は弔慰金を支払う場合に備えて、Aらを被保険者とし、原審被告を保険金受取人とする本件勤労保険契約を締結したものであり、原審被告とAらとの間では、Aらが死亡した場合、原審被告がAらの遺族に対し本件勤労保険契約に基づき支払われる保険金の全部又はその相当部分を退職金又は弔慰金として支払う旨の合意が成立したものと認めるのが相当である。
 しかし、前記勤労団体保険については、同契約が原審被告の全役職員を被保険者とし、その保険金が当初は一律三〇〇万円(Aについては後に六〇〇万円に増額)であること、本件勤労保険契約と異なり「生命保険契約付保に関する規定」の差入れがないことなどを総合すると、右勤労団体保険契約についても、原審被告とAとの間で、Aが死亡した場合、原審被告がAの遺族に対し同契約に基づき支払われる保険金の全部又はその相当部分を退職金又は弔慰金として支払う旨の合意が成立したとは認めることができないものというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 本件勤労保険契約に基づいて支払われる保険金をもってAの死亡退職金を支払う旨の前記合意につき原審被告の社員総会の決議があったことを認めるに足りる証拠はないが、医療法人の理事に対する報酬の額若しくは退職金の支給決定については、原審原告らの主張のとおり、定款の定め又は社員総会の決議を必要とせず、理事会の決定があれば足りるものと解するのが相当である。
 しかして、本件勤労保険契約締結当時の原審被告の理事長のB、常務理事のA及びCの三名は、前記「生命保険契約付保に関する規定」に署名押印していることからも、右合意に同意していることは明らかであり、(証拠略)(原審被告の定款)によると、原審被告の理事は三名以上四名以内とし、うち一名を理事長、二名を常務理事とするものとされていることが認められるから、理事長のB、常務理事のA及びCの三名が前記合意に同意していた以上、右合意については、原審被告の理事会の承認があったものと認めるのが相当である。
 5 証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると、原審被告は、Aが原審被告の常務理事として在職中に死亡したことを保険事故として、D生命から、別紙保険契約目録記載のとおり、本件勤労保険契約に基づく死亡保険金六八二六万五九〇〇円を受領したこと、原審被告が合計一五〇万二五二〇円の年払保険料を支払っていたことが認められ、右年払保険料は平成元年から平成四年まで四回支払われたものと推認されるから、右死亡保険金の額から年払保険料の総額六〇一万〇〇八〇円を控除すると、六二二五万五八二〇円となり、これがAの死亡退職金として支払われるべき金額と認めるのが相当である。
 そうすると、原審原告Xは右金額の二分の一に相当する三一一二万七九一〇円を、その余の原審原告らはそれぞれ六分の一に相当する一〇三七万五九七〇円を取得することになる。