全 情 報

ID番号 07486
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 ヴァリグ事件
争点
事案概要  ブラジルに本店を有する航空会社Yの日本支社で予約部長の地位にあった労働者X(当時六〇歳)が、Yでは経営危機により海外支社を含め大幅な人員削減の合理化政策が実施されていたところ、日本支社でも定年年齢を六五歳から六〇歳に引き下げる旨の就業規則の変更がなされ、それに伴い六〇歳に達した幹部社員(Xら含め四名)に退職してもらう旨の決定がなされたことから、支社長から、就業規則の改定、規程どおりの退職金の支払等について説明がなされた後、危機的な状況を理由に退職の申し出がなされたことに対し、ねぎらいの言葉をかけながら特段の異議も述べず了解するとともに、申し出された有給休暇を消化して退職金も受領したが、約八か月後に、(1)合意解約は不成立である、(2)仮に成立していたとしても本件就業規則の変更は合理性を欠き無効であるにもかかわらず、有効と誤信した錯誤があるため右合意解約は無効であるとして、六五歳までの賃金の支払を請求したケースで、本件合意解約は有効に成立し、就業規則の変更の有効性が合意解約の承諾に当たっての要素となったものとはいえず、錯誤無効にはならないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法95条
体系項目 退職 / 合意解約
退職 / 退職願 / 退職願と錯誤
裁判年月日 1999年12月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 13556 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1752号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 1 以上によれば、A支社長補佐は、平成六年七月二七日、B支社長の指示を受けて、原告に対し、本件就業規則変更を労働基準監督署に届け出たことを知らせるとともに、退職金規程どおり退職金を支払うので被告の経営が危機的な状況にあることを理解し、退職日を同年九月末日付けとして任意で退職するよう求める旨の申し出をしたことが認められるが、右申し出の内容、右申し出をするに当たってのA支社長補佐の配慮、その他右申し出の前後の経緯等に照らすと、右申し出は、就業規則の適用の問題とは一線を画するものとしての、同年九月末日付けで本件労働契約を解約する旨の申込みの意思表示をしたものと解するのが相当である。
 2 そして、前記認定事実によれば、原告はA支社長補佐から右申し出を受けた際、「分かりました」と答え、特段異議を述べることもなかったというのであるから、このよう原告の対応と、その後、A支社長補佐の申し出に応じて、業務の引継ぎを行い、同年八月初旬から出勤しなくなり、退職日までの間に年次有給休暇を消化し、同年一〇月初めに退職金規程に基づく退職金を受領し、その後平成七年六月二二日までの間、定年年齢の切下げに異議を述べたりするなどの、退職を承服していないことを示すような態度をとることはなかったこと、その他、前記認定の諸事情とを考え合わせると、原告は、日本支社の幹部社員として、被告が人員削減を含め全社的な経営合理化を進める中で、日本支社において高齢者の人件費負担を削減することが全社的な経費削減に大きく寄与する事情にあることを理解し、被告が六〇歳以上の従業員を削減対象とし、これに自らが該当する以上、退職はやむを得ないものと考える一方、被告の当時の危機的な経営状況からすれば、被告がいつまで退職金規程どおりの退職金を支払える経営状況でいられるのか分からないという当時日本支社の従業員間に広まっていた懸念が働いた結果、平成六年七月二七日、A支社長補佐に対して前記のような対応をすることによって、被告からの合意解約の申込みを受け入れ、これを承諾する旨の意思表示をしたものと認めることができる。
 以上によれば、平成六年七月二七日、原、被告間において、同年九月末日付けで本件労働契約を解約する旨の合意(以下「本件合意解約」という)が成立したというべきである。
〔退職-退職願-退職願と錯誤〕
 原告は、右承諾の意思表示には、本件就業規則変更が無効であるのに有効であると誤信した錯誤があるから、本件合意解約は無効である旨主張する。
 しかしながら、前記判示のとおり、原告が被告の申込みを承諾したのは、被告の経営合理化のためには大幅な人員削減が避けられず、日本支社において高齢者の人件費を削減することが全社的な経費削減に大きく寄与する事情にあることを理解し、被告が六〇歳以上の従業員を削減対象とし、自らがこれに該当する以上、退職はやむを得ないものと考える一方、被告の当時の危機的な経営状況からすれば、被告がいつまで退職金規程どおりの退職金を支払える経営状況でいられるのか分からないという懸念が働いたためであって、本件就業規則変更が法的に有効であるとの判断が本件承諾の意思表示の主たる動機を形成したものとは認められないし、右判断が黙示的に表示されたということもできない。
 したがって、たとい、原告において本件就業規則変更の有効性を疑わなかったとしても、本件就業規則変更の有効性が原告の承諾の意思表示の内容として被告に表示されて本件合意解約の要素となったものということはできないから、本件就業規則変更の法的効力のいかんにかかわらず、右承諾の意思表示は「法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキ」(民法九五条本文)には当たらない。