全 情 報

ID番号 07489
事件名 地位保全仮処分申立事件
いわゆる事件名 濱田重工事件
争点
事案概要  銅、半導体材料の製造等を業とする会社の熊本工場において現地採用された技術職社員Xら六名が、経営悪化に伴うコスト削減を理由にXらを含む技術職員三五名を対象にしてなされた余剰人員のある熊本工場から要員不足の君津工場への転勤命令の内示(会社は企業内労組Aの了解を経て、個人面接を実施、人選基準に従って対象者を選定していた)に納得できず、合同労組Aに加入して会社と団交を重ねたが、妥結に至らず、正式に転勤命令が出されたところ、赴任勧告を拒否したため、内容証明郵便により一週間内に転勤命令に応じない場合には就業規則の規定に基づき懲戒解雇する旨の意思表示がなされたことから、勤務地限定契約が成立しており、本件転勤命令は無効として、労働契約上の地位確認、賃金等の仮払を求めたケースで、勤務地限定の明示的な拘束はなく、就業規則に転勤等の条項が明記されていること等により、勤務地限定の合意の成立は認められないとしたうえで、転勤の必要性は一応認められるものの、人選の合理性や転勤命令の手続等に疑問があるとして、本件転勤命令を無効とし、地位保全の仮処分の申立てが認容されたが、賃金の仮払については一部認容、一部却下された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1999年12月28日
裁判所名 熊本地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (ヨ) 145 
平成11年 (ヨ) 146 
平成11年 (ヨ) 147 
平成11年 (ヨ) 148 
平成11年 (ヨ) 149 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例781号55頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 前記一の各疎明事実を前提にして債権者らと債務者間の労働契約が、勤務地を熊本工場に限定した勤務地限定契約であるか否かについて検討すると、前記のように、債権者らの採用にあたって特に勤務地限定の約束が明示的になされたと認めるに足る的確な疎明はなく、かえって債務者の就業規則第六条には、「会社は業務の都合で社員に転勤、配転、転職および職階の変更を命ずることがある。また、必要により社外勤務をさせることがある。この場合正当な理由なくしてこれを拒否することはできない。」と明記されていること、債務者では熊本工場のみならず他の事業所においても技術職社員については現地採用を原則としていることが一応認められるが、過去五年間に合計一一七名について技術職社員の転勤(部門間異動)が実施されていること、熊本工場においても、同工場は他の事業所と業務内容が異なるものの他の事業所との間で過去五年間で延べ二四名の転勤が行われており、熊本工場における労務職社員の業務が他の事業所では勤務できないほど特殊なものとは認められないこと、企業内労働組合も本件転勤措置についてはこれを了承していたこと等から考えると、債務者の熊本工場の労務職として現地採用になった者についてだけ、労働契約上勤務地限定の合意が成立していたとは認めがたい。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 1 前記二のように本件債権者、債務者間の労働契約が勤務地限定契約ではないとすると、債権者らは、債務者の転勤命令に対しては原則としてこれに従うべき義務(ママ)あり(就業規則第六条)、これに応じないことは業務上の指揮命令に従わないとして懲戒事由(就業規則第五八条(4))にあたる。
 もっとも、転勤命令についても、それが権利の濫用にわたることは許されないし、もしこれが濫用とされる場合には、労働者に従うべき義務はなく、転勤命令を拒否したからといって業務命令に違反することにはならないし、業務命令違反を理由とする懲戒解雇は無効である。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の限界〕
 本件の場合には転勤命令自体が、熊本工場での余剰人員と君津支店での慢性的要員不足の解消というもっぱら企業側の都合からなされるものであり、その対象が現地採用の労務職社員であることから、債務者の転勤命令の権限も無制限に行使できるものではなく、合理的な制限に服することは当然であり、転勤の業務上の必要性の程度とその転勤により債権者らが被る不利益とを比較衝量(ママ)して総合的に命令の有効性について判断すべきである。
 したがって、本件解雇が有効と認められるためには、その前提として、本件転勤命令が有効である必要があり、その要件としては、〔1〕転勤の必要性(余剰人員整理の必要性。ただし、経営悪化で経営が困難であるという事情までは必要でなく、合理的経営、競争力強化という見地からのものでもよいと考えられる。)、〔2〕人選の合理性が認められること、〔3〕右必要性が本件転勤命令による労働者の不利益を上回ることが必要であり、さらに〔4〕右転勤命令の発令手続が適正に行われたことも必要であると解される。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 債権者らの反対疎明は十分ではないものの、債務者のした本件懲戒解雇の前提となる本件転勤命令についてはその有効性に疑問の点があり、必ずしもその点について疎明があるといえず、その結果、右転勤命令に違反したことを理由とする本件懲戒解雇も適法であるという十分な疎明がないことになる。