全 情 報

ID番号 07512
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 三和事件
争点
事案概要  人材銀行に求職登録していたXら二名は、営業力強化のため即戦力となる者を求めて人材銀行に求人登録を行っていた集中在庫管理等を業とする会社Yから、求人カード(職種役職名を営業課長、転勤の可能性なし等)が送付されて、採用面接を受けたのち、Yに採用されて営業部に配属され、課長としての権限は与えられていなかったものの賃金等は課長として取り扱われていたところ、その約一年後、外注費を削減する必要性から、部署において考課が低いことが人選基準に該当することを理由に業務部への配転が命じられたが、話合い等により納得すれば配置転換に応ずる旨を述べつつこれを拒否したところ、Xら所属の組合との団体交渉を拒否され、就業規則の規定に基づき懲戒解雇されたことから、本件配転命令は権利濫用、不当労働行為等に該当し無効であり、懲戒解雇は権利濫用により無効であるとして、営業部で勤務する労働契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、Xらの雇用契約は営業職、管理的業務という限定を付したものではなく、就業規則に基づく本件配転命令は業務上の必要性があり、人選基準も合理的であり、不当労働行為の成立も肯定できないこと等から権利の濫用に該当しないことから、右配転命令拒否は懲戒解雇事由に該当するとしたものの、本件懲戒解雇は手続の適性を欠き、解雇権の濫用として無効として、地位確認請求が認容され、賃金請求については、Xらは業務部での労務提供の意思を有していなかったとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条
労働組合法7条3号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
裁判年月日 2000年2月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 9927 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例783号102頁/労経速報1728号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 原告らと被告との雇用契約は、入社当初原告らを営業部に配属し、課長と同等の賃金を支払うことを内容とするものであって、営業職、管理的職業という限定を付したものではないと認めるのが相当である。なお、雇用契約が人材銀行を介して締結されたものであること及び人材銀行の設置目的は、雇用契約締結時の当事者の意思を解釈する上で一つの判断材料とはなるものの、当事者の契約が右設置目的等に拘束されるものではないから、人材銀行で扱う職種が管理的職業であるからといって、原告らの職種が管理的職業に限定されたことにはならないのであり、本件においては、前記の事実等に照らせば、雇用契約が人材銀行を介して締結されたものであることを考慮しても、営業職、管理的職業という限定が付されていたと解することはできないというべきである。また、被告は求人カードに、転勤の可能性無と記載しているが、「転勤」は、一般に転居を伴う配置転換を指すものとして用いられているから、この記載をもって、被告が配置転換がないことを明らかにしたということもできない。
 3 以上によれば、原告らと被告との間において、被告は業務上の都合で社員に配置転換を命ずることができ、社員は正当な理由がなければこれを拒否することができない旨定めた就業規則九条(前記第二の一5)を排斥する合意が成立していたと認めることはできず、被告は、業務上その必要があれば、就業規則九条に基づき、原告らに対して、本件のような営業部から業務部への配置転換を命ずる権利を有するというべきである。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 配転命令権は、全く無制限に行使しうるものではなく、当該配転命令につき業務上の必要性が存在しない場合又は業務上の必要性が存在する場合であっても、当該配転命令が他の不当・違法な動機、目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等特段の事情が存する場合は、当該配転命令は権利の濫用であって無効になると解するのが相当である(最高裁昭和六一年七月一四日第二小法廷判決・判例時報一一九八号一四九頁参照)〔中略〕。
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件配転命令が、原告らが労働組合を結成して活発な組合活動を展開しようとしていたことを嫌悪し、労働組合を壊滅状態に追い込むことを意図してされたものであると認められるためには、少なくとも、当事者間に争いのない本件配転命令発令日平成九年一〇月六日より前に労働組合結成通告がされたこと、他の者に対する配転命令が同月一日に発令されていることの立証が不可欠であるというべきであるが、これらの点が立証されているといえないことは前記のとおりである。なお、一〇月一日付け人事異動が九月二六日に確定していたかどうかの点は、労働組合結成通告及び他の者に対する配転命令が一〇月一日にされたことが認められない限り、本件配転命令が原告らが労働組合を結成したことを嫌悪してされたものであることを推認させる事実とはならない(確定日についての被告の主張が事実に反することが明らかであれば、他の二つの事実が存在したことを推認させる一つの事情になるということができるが、被告の主張が事実に反することが明らかであるとまではいえない。)。
 よって、本件配転命令が、原告らが労働組合を結成して活発な組合活動を展開しようとしていたことを嫌悪し、労働組合を壊滅状態に追い込むことを意図してされたものであるとの原告らの主張は理由がない。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 賃金の変化は、前記(一)(3)のようなものであり、職務手当が減額となり、営業手当・行動手当が支給されなくなるが、これは担当する職務の変更に伴うものである上、営業部では支給されなかった手当が業務部では支払われるなど相当程度の調整は図られているものである。
 (四) 以上検討したところによれば、本件配転命令が、原告らに通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとまでは認められない。
 6 以上の次第であるから、本件配転命令が権利の濫用で無効であるとはいえず、原告らの主張は理由がない。〔中略〕
 原告らは本件配転命令を拒否していたとはいえ、話し合い等により納得すれば配置転換に応ずる旨述べていたこと、原告らの採用の経緯にかんがみれば、原告らが本件配転命令に難色を示すのも無理からぬものがあること、仮にA労組が本件配転命令後に結成されたものであるとしても、本件配転命令は原告らの労働条件に関わるものであるから、被告にはこの問題に関し団体交渉に応ずる義務があったにもかかわらず、これを拒否したものであって、労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であるといわざるを得ないことからすれば、被告は、少なくとも、団体交渉の継続を約束した上で、就労開始日以降の業務部での就労を求めるべきであって、右のような手続を経ることなく、就労開始日を待たずにされた本件懲戒解雇は、その余の手続の適正について論じるまでもなく、手続の適正を欠き、解雇権を濫用するものとして無効であるというべきである。