全 情 報

ID番号 07521
事件名 賃金請求上告事件
いわゆる事件名 三菱重工業長崎造船所(一次訴訟・組合側上告)事件
争点
事案概要  Y社長崎造船所の従業員であるXら二七名が、右造船所では、完全週休二日制の実施に当たり、就業規則を変更して、所定労働時間を一日八時間(休憩時間は正午から午後1時までの一時間とする)とし、始業・終業基準として、(一)始業に間に合うように更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に実作業を開始し、(二)午前の終業においては所定の終業時刻に実作業を中止し、(三)午後の始業に当たっては右作業に間に合うように作業場に到着し、(四)午後の終業に当たっては所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うこととされ、始業・終業の勤怠把握基準としては、従前の職場の入口又は控所付近に設置されたタイムレコーダーを廃止し、更衣を済ませ始業時に所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準に判断する旨が新たに定められ、当時Xらは実作業に当たり、作業服のほか保護具、工具等の装着を義務づけられ、これを怠ると懲戒処分等を受けたり、成績査定に反映されて賃金の減収につながる場合があったところ、就業規則の定めに従って所定労働時間外に行うことを余儀なくされた(1)入退場門から所定の更衣所までの移動時間、(2)更衣所等において作業服のほか所定の保護具等を装着して準備体操場まで移動する時間、(3)午前ないし午後の始業時刻前に副資材等の受出し・午前の始業時刻前の散水に要する時間、(4)午前の終業時刻後に作業場から食堂等まで移動し、現場控所等において作業服等を一部離脱する時間、(5)午後の始業時刻前に食堂等から作業場等まで、作業服等を再装着する時間、(6)午後の終業時刻後に作業場等から更衣所等まで移動してそこで作業服等を脱離する時間、(7)手洗い、洗面、先身、入浴後に通勤服を着用する時間、(8)更衣所等から入退場門まで移動する時間が、いずれも労働基準法上の労働時間に該当するとして、八時間を越える時間外労働に該当する右諸行為に対する割増賃金等を請求したケースのXら側の上告審で、一審と同様に、(2)、(3)及び(6)の諸行為に要した時間は、いずれもYの指揮命令下に置かれているものと評価でき、労働基準法上の労働時間に該当するとしてXらの請求を一部認容した原審の判断が正当として是認できるとして、Xらの敗訴部分取消しを求めた上告が棄却された事例。
参照法条 労働基準法36条
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 着替え、保護具・保護帽の着脱
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 歩行時間
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 入浴・洗顔・洗身
裁判年月日 2000年3月9日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (オ) 2030 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1709号126頁/タイムズ1029号164頁/裁判所時報1263号1頁/労働判例778号8頁/労経速報1728号6頁
審級関係 控訴審/06454/福岡高/平 7. 4.20/平成1年(ネ)193号
評釈論文 土田道夫・労働判例786号6~13頁2000年10月1日/浜村彰・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕212~214頁2001年6月/野田進・労働法律旬報1493号14~21頁2000年12月10日
判決理由 〔労働時間-労働時間の概念-歩行時間〕
 右事実関係によれば、右二(四)(1)〔1〕及び(4)〔3〕の各移動は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができないから、各上告人が右各移動に要した時間は、いずれも労働基準法上の労働時間に該当しない。
〔労働時間-労働時間の概念-入浴・洗顔・洗身〕
 上告人らは、被上告人から、実作業の終了後に事業所内の施設において洗身等を行うことを義務付けられてはおらず、特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったというのであるから、上告人らの洗身等は、これに引き続いてされた通勤服の着用を含めて、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、各上告人が右二(四)(4)〔2〕の洗身等に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当しないというべきである。
〔労働時間-労働時間の概念-着替え、保護具・保護帽の着脱〕
 他方、上告人らは、被上告人から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられていたなどというのであるから、右二(四)(1)〔2〕及び(4)〔1〕の作業服及び保護具等の着脱等は、被上告人の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、右着脱等に要する時間は、それが社会通念上必要と認められる限り、労働基準法上の労働時間に該当するというべきである。しかしながら、上告人らの休憩時間中における作業服及び保護具等の一部の着脱等については、使用者は、休憩時間中、労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足りるものと解されるから、右着脱等に要する時間は、特段の事情のない限り、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえず、各上告人が右二(四)(2)及び(3)の各行為に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当するとはいえない。以上と同旨の原審の判断は、是認するに足りる。