全 情 報

ID番号 07522
事件名 損害賠償事件、反訴各請求事件
いわゆる事件名 強姦未遂・解雇事件
争点
事案概要  女性労働者Xが、会社Y1の代表取締役であるY2から、入社以来長期にわたり勤務時間中に会社の事務所内で、卑猥な話をされたり、同僚が不在の時には身体に触られたり、また、新年の仕事初めの日には勤務終了後に居酒屋において性的関係を持つことを執拗に誘われるなどの性的嫌がらせを受け、更に、会社の事務所内で強姦未遂の被害も受け、その二週間後には心的外傷ストレス障害となったうえ(三年以上経過後も治療継続中)、Y2により解雇されたため、(1)Y2に対しては不法行為(民法七〇九条)に基づく損害賠償、(2)Y1に対しては、代表者の不法行為につき、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項に基づく損害賠償を請求した(本訴)のに対し、Y2らがXに対し、Xが強姦未遂等の事実を捏造して、本訴を提訴してY2らの名誉を毀損したり、金銭を喝取するなどの不法行為があったとして損害賠償を請求した(反訴)ケースで、事後に交わされた会話の録音テープ等の検討により、X主張の事実を認定して、Y2の一連の行為は会社の代表者と従業員という関係を利用して行ったと評価すべきであるとして、Y1及びY2に対するXの請求が一部認容され、Y1及びY2の請求が棄却された事例。
参照法条 民法709条
民法44条1項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 2000年3月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 21296 
平成10年 (ワ) 6697 
裁判結果 本訴一部認容・一部棄却、反訴棄却(控訴)
出典 時報1734号140頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 前記ウ及びエの会話では、被告Y2は有効な反論を全くしておらず、主として記憶がないと述べつつ、ズボンのベルトが緩み、チャックが開いていたことを認めた上、謝罪と見られる発言までしている。被告Y2は、この点につき、原告の背後に誰かいるに違いないと直感し、原告の出方を探るため適当に受け答えをしたと陳述するが、《証拠略》中に被告Y2の右意図に整合すると見られる発言を見出すことはできないのであって、同被告の右陳述は採用し難い。
 また、前記ウの会話は、被告Y2が最初にドアに鍵を掛ける部分が後から出てくるなど、話が前後しているが、そこでの原告の発言を繋ぎ合わせれば、ほぼ請求原因(二)(2)の事実と一致し、そこに前後の矛盾等は見られない。このように、話が前後しているにもかかわらず、前後矛盾等が見られないということは、そのような事実が実際にあったか、実際にはなかったとすれば、原告が入念にストーリーを構成し頭に入れた上で被告Y2との会話に臨んだかのいずれかであると考えられるが、証拠上、そのような事実が存在しないにもかかわらず、被告Y2が記憶がないというような曖昧な回答をする保障があったとは認められず、むしろ原告自身が著しく不利な立場に置かれる危険が大きいのであるから、実際にはそのような事実がないのに、原告が虚偽のストーリーを構成し被告Y2との会話に臨んだとは考え難い。
 なお、前記ウの会話からは緊張感がさほど伝わらないが、A職員から「録音を成功させるためには、加害者に悟られないように、いつものとおりに様子を変えずに接してください。」と指示されていたので、普通に振る舞うよう心がけたとの原告の陳述に不自然さはなく、緊張感の欠如から、強姦未遂の事実の存在を疑うことはできない。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 請求原因(二)(3)(不当解雇)の被告Y2の行為が被告会社の代表者としてのものであることは明らかである。
 また、請求原因(二)(1)(入社以来の性的嫌がらせ)及び同(2)(強姦未遂)の被告乙山の各行為は(1)カを除き勤務中に被告会社事務所で行われたものであり、また、(1)カも、勤務終了後それに引き続いた時間と経過の中で行われたものであり、被告会社の代表者と従業員という関係を利用して行ったと評価すべきものである。
 したがって、被告Y2の各不法行為は、被告会社の代表者としての職務を行うにつき行ったものであり、被告会社は、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により、原告に対し、損害賠償責任を負うというべきである。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 請求原因(二)(1)の被告Y2の一連の不法行為(入社以来の性的嫌がらせ)は、長期間にわたり執拗に行われたものであること、請求原因(二)(2)の不法行為(強姦未遂)は被告会社事務所内で行われたもので、原告に不法行為を誘引するような落ち度といえるものがないこと、《証拠略》及び前記2(二)(2)イ(キ)で認定したB医師の所見によれば、原告は、この不法行為により心的外傷後ストレス障害となり、不法行為後三年以上を経過した平成一一年一二月一日時点でもなお治療を継続中であると認められ、原告の被った精神的苦痛が大きいこと(なお、被告らの応訴の態様及び反訴の提起等により訴訟が長期化し、当時のことを忘れることができない状況にあることも治療の長期化の一因になっていると考えられる。)からすれば、慰謝料は一八〇万円が相当である。〔中略〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 原告は、昭和二四年八月二九日生まれで解雇当時は四七歳であったこと、原告は、再就職先がなかなか見つからなかったため平成九年七月まで九か月間再就職できなかったことが認められる。
 昨今の雇用情勢からみて、原告のような立場にある者の再就職が容易でないことは明らかであり、解雇後九か月間の得べかりし賃金は、請求原因(二)(3)の不法行為(不当解雇)と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。