全 情 報

ID番号 07531
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 協同乳業事件
争点
事案概要  退職三週間前まで約三年間、会社Yの関連子会社の代表取締役として出向していた間について雇用保険に加入できなかった元従業員Xが、Yに復帰後、選択定年制により退職したが、雇用保険の失業給付を受けるための被保険者期間の要件を具備できなかったため、退職後失業給付を受給できず、更にYの就業規則には、「従業員が関連会社に出向するなどして定年退職後の失業給付受給資格を喪失した場合、失業給付相当額を補填する」旨の規定が存在していたが、Xは定年退職ではなく選択定年制による退職であったため、右規定が適用されなかったことから、会社には得べかりし失業給付相当額を補填する義務があり、仮にそうでなくとも右失業給付相当額を賠償すべき義務があるとして、その支払を請求したケースで、定年退職した場合にのみ失業給付相当額を補填する旨の内容は合理性があり、Xのような選択定年制による退職には適用されず、YはX主張のような義務を負わないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項2号
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 2000年3月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 22796 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例783号51頁/労経速報1748号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生〕
 従業員が関連会社に出向するなどして定年退職後の失業給付受給資格を喪失した場合、失業給付相当額を補填する旨の内規が被告に存在することが認められる(この内規を以下「本件内規」という。)。
 右の場合以外に、被告に、退職後の元従業員に失業給付相当額を補填する旨の内規あるいは慣例があることを認めるに足りる証拠はない。
 証拠(〈証拠略〉)によれば、被告は、昭和六三年に希望退職により退職した従業員に対し、失業給付相当額の補填をしたことが認められるが、この一事例によって右慣例の存在が基礎付けられるとは認められない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生〕
 被告の就業規則(〈証拠略〉)には、退職の場合として、定年退職のほか、死亡、休職期間満了、依願退職等の場合が挙げられている(六七条)。そうすると、本件内規があえて定年退職の場合における失業給付相当額の補填を規定していることは、定年退職の場合のみに限定して右のとおり補填する旨定めたことを示すものと解するのが相当である。定年退職の場合、他の退職の場合と異なり、従業員側の都合に基づかないものであるから、この場合のみ一定の給付補填を行うというのも、企業の労務管理上の定めとして一応合理性が認められるというべきである。〔中略〕
〔退職-定年・再雇用〕
 本件退職が選択定年制度に基づくものであることは前提となる事実1記載のとおりであるが、選択定年制度といっても、これに基づく退職は依願退職の一種又はこれに類するものであり、同制度によれば退職金の加算という優遇措置があるというにすぎない(〈証拠略〉)。したがって、選択定年制度に基づく退職は、「定年」との用語を用いているとはいえ、定年退職とは性質を異にするというべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生〕
 原告は、本件内規の定めが、定年退職の場合のみに限定して失業給付相当額を補填する旨定めたものであると解すると、被告の従業員は損失補填を受けたければ定年まで待たなければならず不当である旨主張するが、他の退職事由を除外して定年退職の場合のみに失業給付相当額の補填を与えるという定めも一応の合理性が認められることは前記のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。