全 情 報

ID番号 07546
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 プラウドフットジャパン事件
争点
事案概要  コンサルティングサービス等を業とする外資系企業Yにインスタレーション・スペシャリスト(IS:顧客企業の役員及び管理職に対して適切な質問を行うことなどを通して自ら問題意識と解決への意欲を生じさせ、協同して問題の解決策を作成実行)として、年俸七七〇万円を条件に中途採用された労働者Xが、入社以来五つのプロジェクトに従事してきたが、そのうち一つを除くプロジェクトに従事している期間中においてISとして求められている能力や適格性の点においていまだ平均に達していない状態が一年半にわたり断続的に続いていたところ、プロジェクトから外され、別の職務を提供して雇用継続していく旨の提案により約三か月にわたり交渉を重ねたが、結局、妥協点が見出せず、交渉中断二か月経過後に、就業規則の規定(その職務遂行に不適当と判断された、その職務遂行に不十分又は無能と判断されたとき解雇ができる旨の規定)に該当するとして、解雇予告手当相当の金員の送付とともに解雇の意思表示がなされたことから、本件解雇は就業規則に定める解雇事由に当たらず、解雇権の濫用として無効であるとして、労働契約上の地位確認及び賃金の支払を求めたケースで、ISとしての適格性、能力と本件就業規則該当性につき、未経験社員が一定期間ISとして稼働したにもかかわらず、能力等が平均を超えないと判断される場合には、就業規則該当性が肯定されるとし、今後、XにISとして求められている能力や適格性を高める機会を与えたとしてもXがISとして求められている能力や適格性の点において平均に達することは極めて困難であるとし、Xは就業規則の解雇事由に該当し、更に解雇に至る経緯も併せ考えれば、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当なものとして是認することができないとはいえないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年4月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 6384 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例789号21頁
審級関係
評釈論文 山下昇・法律時報74巻1号92~95頁2002年1月
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 被告においてはISとして採用された社員が入社後のトレーニング及び実務における経験を重ねることによりISとしての能力や適格性を高めていくことが予定されているものと認められ、この認定を左右するに足りる証拠はないのであって、そうであるとすると、被告がISとして雇用した社員が被告に入社するまでに経営コンサルタントとして稼働した経験がない場合には、その社員との間に締結した雇用契約においては雇用の時点において既にISとして求められている能力や適格性が平均を超えているか、又は、少なくとも平均に達していることが求められているということはできないのであって、その場合には、一定の期間ISとして稼働し、その間にISとして求められている能力や適格性が少なくとも平均に達することが求められているものというべきである。
 そうすると、被告に入社するまでに経営コンサルタントとして稼働した経験がない社員が一定期間ISとして稼働したにもかかわらず、ISとして求められている能力や適格性がいまだ平均を超えていないと判断される場合には、その社員はその能力や適格性の程度に応じて「その職務遂行に不適当」又は「その職務遂行に不十分又は無能」に当たると解される。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 原告は、平成七年四月一〇日に被告に雇用された後、同年六月六日から平成八年九月二七日までの間に、主としてAのプロジェクト、Bのプロジェクト、Cのプロジェクト、Dのプロジェクト及びEのプロジェクトに従事してきたが、このうちCのプロジェクトを除くその余のプロジェクトに従事している期間中における原告はISとして求められている能力や適格性の点においていまだ平均に達していなかったものというべきであり、このような状態が原告の入社以来一年半にわたって断続的に続いてきたのであり、Eのプロジェクトから外された際の原告の発言からうかがわれる原告についてのISとして求められている能力や適格性に対する原告自身の認識からすれば、今後も原告を雇用し続けてISとして求められている能力や適格性を高める機会を与えたとしても、原告がISとして求められている能力や適格性の点において平均に達することを期待することは極めて困難であったというべきである。
 そうすると、Eのプロジェクトから外された時点における原告は本件就業規則九条一項一号及び二号に該当すると認められる。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 Eのプロジェクトから外された時点における原告が本件就業規則九条一項一号及び二号に該当することは、前記第四の三5のとおりであるところ、被告は、右に述べたとおり、原告をEのプロジェクトから外した後に、原告に対し、PSRという職務を提供して原告の雇用を継続しようとする提案をし、原告との間でその後平成八年一二月までの約三か月間にわたり交渉を重ねたものの、原告との間で妥協点を見出すことができず、交渉が中断してから二か月余りが経過した平成九年三月一二日に至り本件解雇に及んだのであり、以上の経過も併せ考えれば、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないということはできず、本件解雇が権利の濫用として無効であるということはできない。