全 情 報

ID番号 07547
事件名 保険金引渡請求事件
いわゆる事件名 金星工業事件
争点
事案概要  会社Yの取締役であったBの妻Xが、YがBを被保険者として、生命保険会社と生命保険契約を締結し、右保険契約に基づいて、Bの死亡により保険金(一億三八五〇万円)を取得したが(退職慰労金と関連のある会社加入の保険契約の受取保険金は全額会社に帰属する旨の会社の規定あり)、右保険契約締結時に、YとBとの間で本件保険金については、保険金相当額を遺族に引き渡す旨の合意があったとして、保険金の引渡しを請求したケースで、本件保険契約の目的として本件保険金を退職金に充てること、役員死亡による企業の損失補填の他、役員の福利厚生、遺族の生活補償の目的を含むものと考えるのが合理的であるとしたうえで、YB間で本件保険金相当額を遺族に引き渡す旨の合意があったものと推定するのが相当であるとし、保険金からYが支払った保険料及び退職金の額を控除した額の四分の一について請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項3号の2
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
裁判年月日 2000年4月26日
裁判所名 名古屋地岡崎支
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 378 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 時報1730号147頁/労働判例790号32頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 Aは亡Bに対し、平成五年一二月一五日、本件生命保険契約の説明の際、保険金額、受取人等の内容及び万が一の場合には、生命保険金を支払う旨述べている。また、Aは、当時、本件生命保険に経営者の遺族の補償をする意味も含まれている旨の認識をしていた。
 なお、被告会社には平成五年一一月一日制定された退職金規定があるものの、本件生命保険契約の締結を検討した時期も右規定の制定時期とほぼ同時期であった。
 このような状況において、亡Bは本件生命保険契約の被保険者となることに同意した。
 (五) 本件保険契約のパンフレットには、逓増保険であること、役員のために特に高額かつ長期の保障内容としていること、節税できること、経営者の退職金・弔慰金の準備に有効であること等がうたい文句とされていること(〈証拠略〉)、本件保険金の算出根拠として、亡Bの死亡退職金を二億三四六〇万円とされているところ(〈証拠略〉)、現実には、被告会社の退職慰労金規定と計算方法、金額が異なっているとしても、右死亡退職金額が本件保険金算出の根拠とされていることが窺われること、また、被告会社の右退職慰労金規定に基づく退職慰労金と本件保険金額は、極端に異なり、本件において、亡Bに対し、役員退職慰労金を支払っているところ、右金額は、二一一六万七五〇〇円であり、他方、本件保険金額は、主契約の死亡保険金が一五〇〇万円、逓増定期保険特約基準保険金が九五〇〇万円で、第二保険年度以降、毎年特約締結時の保険金額に一〇パーセントに相当する額が上積みされるものであったこと(具体的に、亡Bの死亡時には、保険金額が一億三八五〇万円であった)、及び前記Aの証言に照らして、本件保険契約の目的として本件保険金を退職金に充てること、役員死亡による企業の損害の填補の他、役員の福利厚生、遺族の生活補償の目的を含むものと考えるのが合理的である。
 (六) 亡Bは、死期が間近に迫ったころ、原告に対し、「もし、自分が死んだら、被告会社が保険のことで判を押してくれ、と言って来るかも知れない。もし来たら、それは自分たちに貰える保険金だから、すぐには判を押してはいけない。一〇〇〇万円でも、二〇〇〇万円でも貰えるかも知れないので、弁護士に相談するように。」等と言っていた。
 2(一) 右事実関係によれば、被告会社と亡Bとの間において、本件保険金については、少なくとも本件保険金のうち相当額を遺族に引渡す旨の合意があったものと推定するのが相当である。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 (二) 被告会社の退職慰労金規定一三条によれば、退職慰労金と関連のある会社加入の保険契約の受取保険金(中途解約返戻金も同じ)は、全額会社に帰属する旨規定されている。
 しかしながら、右規定があるとしても本件合意の成立は両立し得るので、右認定の妨げとはならない。
 また、本件保険契約において、保険料は、全額損金処理することにより、被告会社にとって、利益の繰り延べと節税効果が認められるとしても、右合意の存在を認定する妨げとはならない。
 3 そこで、本件合意に基づく、被告会社が亡Bの相続人である原告に対して支払うべき具体的な金額について検討するに、前掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、本件保険料として、一九七〇万八三四〇円を支払っていること、亡Bの退職金として、昭和五五年七月ころに三九九万〇七二〇円を、平成七年三月に一七四二万円を、平成八年四月に三七四万七五〇〇円を支払い、その合計額は、四四八六万六五六〇円となること、本件保険契約の目的が、節税対策や企業防衛等被告会社の利益をも目的としていること、亡Bが原告に対して述べていた金額等を考慮すると、右相当金額は、本件保険金額一億三八五〇万円から、四四八六万六五六〇円を控除した額の四分の一である二三四〇万八三六〇円とするのが相当である。