全 情 報

ID番号 07562
事件名 保全異議申立事件
いわゆる事件名 シンガポールデベロップメント銀行(仮処分申立て)事件
争点
事案概要  シンガポール共和国に本店を置く銀行Yの大阪支店で外国為替業務を担当してきた従業員で労働組合Aの組合員Xら二名が、本店からの指令により大阪支店の閉鎖が発表され、組合Aとの団体交渉において、後日希望退職を含む提案をすること、東京支店への転勤はないこと等が告げられ、その後、大阪支店職員全員に対して、自己都合退職ではない退職一時金の支払及び基本給・職務手当の六か月分の追加退職金の支払、転職斡旋サービスの提供等を条件とする希望退職が要請され、その後Xら及び組合AとYとの間で数度の団体交渉が行なわれた際には、通常退職金を五割増しとし、更に追加退職金を六か月上乗せする等の提案をされたが、Xは東京支店への配転等を要求して希望退職に応じなかったため解雇されたことから、右解雇は解雇権の濫用により無効であるとして、労働契約上の地位確認及び賃金の支払の仮処分を申し立てたケースの仮処分異議申立てで、本件解雇において人員整理の必要性を認め、Yには東京支店における希望退職を募集する義務があったとはまではいえず、解雇回避努力としては希望退職募集以外にない等から、整理解雇としての有効要件を充足し、解雇権の濫用に当たらないとしてYの異議申立てが認められ、Xらの請求を一部認容した仮処分命令が取り消された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2000年5月22日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成11年 (モ) 57026 
裁判結果 認容(原決定取消)
出典 労働判例786号26頁/労経速報1742号16頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 本件解雇は、大阪支店閉鎖によって余剰人員となった債権者らを人員整理のために解雇するというものであるから、いわゆる整理解雇に該当するところ、かかる整理解雇が有効と認められるためには、第一に、人員整理の必要性が存すること、第二に、人員整理の手段として解雇を選択することの必要性が存すること(使用者が、解雇回避のための努力をしたこと)、第三に、被解雇者の選定が合理的であること、第四に、解雇の手続が妥当であること(使用者が労働者や労働組合に対して、人員整理の必要性等について説明や協議を行ったこと)が必要であり、整理解雇が有効か否かはこれらの要件該当性の有無、程度を総合的に考慮して判断されるべきであると解する。〔中略〕
 人員整理の必要もなくなされた解雇が不当であることはいうまでもないし、人員整理の必要が認められるとしても、解雇によって労働者が被る影響を考えると使用者には解雇に先立ちこれを回避するための方策を講じるべき努力義務があるというべきであり(ただし、努力義務の内容は一律に定まっているというものではなく、具体的状況に応じて使用者の取った方策の当否が検討されるべきである)、また、その人選が合理的なものでなければならないことも当然のことである。さらに、労使間の信義という点からすると、使用者には、当該解雇が恣意的なものでないことを労働者ないし労働組合に納得させるべく説明や協議を行うべきことも要請されるというべきである。これらの各要件は、使用者側の経営上の理由のみからなされる整理解雇の特殊性に鑑み、使用者の恣意的な解雇を排除するために必要と解されるところを類型化したものであり、整理解雇が、客観的に合理的な理由を有するものであるか否かは、これらの要件に即し、かつ、最終的にはこれら要件該当性の有無、程度を総合して判断されるべきが相当であって、これを不要とする債務者の主張は当裁判所では採用しない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 右認定事実によれば、在日支店の業績不振は明らかであり、とりわけ大阪支店では平成一一年度は赤字にまで転落しているのであって、業績好転に繋がる材料もなく、両支店の規模や両支店を取り巻く企業環境等からして、債務者が大阪支店閉鎖を決定したことを不当とすべき理由も見いだせない。他方、大阪支店閉鎖に伴い同支店の業務は東京支店が引き継いでいるのであるが、一般的にみても二店舗で行っていた営業を一店舗に集約すれば余剰人員が生じるのは避けられないところ、加えて、債務者では、事務量の減少などから両支店ともここ数年は人員を削減させるなどしてきたのであるから、大阪支店閉鎖によって少なからぬ余剰人員が生じたことは十分首肯できるところであり、人員整理の必要性が存したことはこれを認めることができる。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債権者らは、在日両支店は経済的、事業的に一体関係にあったなどとして、債務者には、本件解雇の(ママ)先立ち、債権者らを東京支店に配置転換させるべく検討し、そのために必要があれば東京支店においても希望退職者を募るなどの解雇回避努力を行うべき義務があったと主張する。
 ところで、前記認定のとおり、大阪支店閉鎖以前から両支店とも人員を削減してきており、そのうえでなお、債務者では東京支店が大阪支店の業務を引き継いでも十分に対応が可能と判断し、大阪支店閉鎖を決定したのであるが、その後、東京支店において、大阪支店から引き継いだ業務に対応するための増員をしたとの疎明もないから、大阪支店閉鎖時には、東京支店でも人員過剰であったと認められ、そのままでは債権者ら大阪支店の従業員を東京支店に配置転換する余地はなかったものと認められる。
 そうすると、問題は、債務者が行った大阪支店の従業員のみを対象とする希望退職者募集が解雇回避措置として相当なものであったか、その前提として、債務者には、東京支店でも希望退職者を募集して債権者らの解雇を回避すべき努力義務があったというべきか否かである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 以上のとおり、債権者ら指摘の事実はいずれも両支店の一体関係を推認する根拠とすることはできない。
 むしろ、前記認定のとおり、大阪支店は関西以西の西日本地区の新規取引先開拓等の目的で開設されており、その営業活動の範囲や取引先は東京支店とは自ずと異なっていたと考えられるし、大阪支店の税引後利益は同支店に留保されているなど独立した採算がとられていること、従業員の採用方法も賃金等の待遇面でも両支店では異なり、大阪支店の従業員は近郊居住者から勤務地を大阪支店と明示して採用されていること(通常は、使用者側の配転命令に対し、労働者側からの勤務地限定の合意があったと主張される根拠となりうるものである)、支店開設時の例外的な一名の転勤を除いては両支店間での人事交流もなかったことなどを総合すると、大阪支店は、東京支店とは独立して別個に運営されており、少なくとも一般の従業員に関しては配置転換も予定されてはいなかったというべきである。
 そうすると、両支店の一体関係を理由として、債務者が東京支店でも希望退職者募集の措置を取るべきであったと認めることはできない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 右のとおり、債務者には、東京支店で希望退職者を募集する義務までは認められず、他方、本件解雇時の人員状況からして債権者らの東京支店への配置転換が困難であるとすると、大阪支店閉鎖に伴い同支店従業員の解雇は免れず、その場合の解雇回避措置としては希望退職の募集以外にない。
 債務者は、優遇条件(希望退職パッケージ)を付した希望退職者の募集を行っているが、その内容も最終的には通常の五割増の退職一時金、基本給及び職務手当の一年分の追加退職金を支給したうえ、未消化の年次有給休暇の買い上げや夏季賞与の比例割合分の支給を行うというもので、従業員の当面の生活困窮に対する一応の経済的配慮は払われているし、加えて、転職斡旋サービスをも行うというものであるから、これが解雇回避の措置として不相当ということはできない。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 本件解雇は、債権者らのみを別異に扱ったものではなく、大阪支店従業員全員一律に希望退職を募集し、これに応じなかった債権者らを解雇したものであり、その旨の予告もされていたのであるから、人選に不合理と認めるべき点はない。
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 債務者は大阪支店閉鎖の発表後、組合とは前後七回の団体交渉を行い、その中で、空きがないため東京転勤は不可能であることを説明するとともに、交渉の結果、希望退職の募集条件を上乗せするなどそれなりの柔軟性を見せてきており、格別不誠実と目すべき対応は認められないから、本件解雇が手続的にも不当であったとは認められない。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上を総合すると、本件解雇は、整理解雇としての有効要件を満たすものというべきであり、客観的にみて合理的な理由について一応の疎明があり、解雇権を濫用したものとは認められない。