全 情 報

ID番号 07571
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 日本交通公社事件
争点
事案概要  旅行会社の海外旅行課長の職にあり入出金処理を行っていた労働者が、他の従業員の外務員証カードを使用して顧客から入金された旅行代金を不正に出金していたことを理由に、就業規則(謝金を窃取着服した場合懲戒解雇する旨の規定)に基づいて懲戒解雇されたが、一部の例外を除いて一か月以内に返金して清算処理を行っていたことから会社には経済的な実損は生じていないとして、(1)右一連の行為は就業規則の規定の「窃取着服」行為に該当せず、(2)仮に該当するとしても懲戒権の濫用であるとして、雇用契約上の地位にあることの確認請求したケースで、右一連の行為は重大な不正行為であり、外形的にも実質的にも就業規則規定の懲戒解雇事由に該当し、懲戒権の濫用を認めるに足りる事情もないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 2000年6月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 9177 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1739号20頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 原告の行為が外形的に「窃取着服」に該当するとしても、そのことから直ちに本件懲戒解雇が有効とはいえないことは原告の主張のとおりである。すなわち、懲戒解雇は、当該従業員から生計を維持する道を奪うだけでなく、退職金も支給されないことが多く(被告の就業規則一八一条にも懲戒解雇の場合は退職金は支給されない旨規定されている(書証略))、事実上再就職に差し支える可能性もあるなど、当該従業員に対し重大な不利益を及ぼすものである。そのことからすると、その行為が外形的に懲戒解雇事由に該当するとしても、実質的にみて、右のような懲戒解雇に伴う不利益を甘受するのが当然であるとはいえないような場合は、当該懲戒解雇は重きに失し、懲戒権の濫用に当たり無効であると解するのが相当である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 右のとおり、原告の行為には、その理由に汲むべき事情もないではなく、また、被告には経済的な実損害はほとんど発生しなかったなどの面はある。しかし、原告の行為は、その回数、金額及び態様の悪質さ(社内規定違反を隠蔽する目的であったことや他の社員の外務員証カードを使用して行為を隠蔽しようとしたことなど)、原告が被告の渋谷支店の海外旅行課長という立場にあったこと、被告の信用失墜を招いたこと、原告が出金処理した旅行代金が返還されなければ、被告に多大な経済的損害を与えるだけでなく、さらなる信用失墜の危険もあったことなどからすれば、重大な不正行為というべきであり、外形的のみならず実質的にも被告の就業規則に規定する懲戒解雇事由に該当するものといわざるをえないから、本件懲戒解雇は、正当な理由に基づくものであり、他に懲戒権の濫用を認めるに足りる事情もないので有効であるというほかない。