全 情 報

ID番号 07646
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー事件
争点
事案概要  生命保険業等を営む株式会社Yに二級コンサルタント社員として雇用され生命保険契約募集業務に従事していた労働者Xが、〔1〕他の社員とチームを組んで、自らは税理士から協力を取り付ける役割を担当し、他の者が税理士から紹介された法人に対して保険の説明、被保険者との面談等の手続を行い、保険契約が成立すれば、X自らも協同募集者としてYから報酬を得ていたが、Xは募集に該当する行為を行っておらず、他の社員らの単独募集とすべきであるのに、申込書に協同募集として自己の氏名を記載して虚偽の報告を行うとともに、不当に報酬を取得したことが賞罰規定の懲戒解雇事由に該当すること、また〔2〕Xの単独募集として計上した契約は、本来ならば共同募集とすべきであったとして、これが賞罰規定の懲戒解雇事由に該当することを理由に、Yから懲戒解雇(第一次解雇)されたことから、〔1〕〔2〕は懲戒解雇事由に該当せず懲戒解雇は無効であるとして雇用契約上の地位の確認及び賃金の支払を請求したケースの控訴審で(Yが控訴し、さらに〔3〕第一次懲戒解雇後の保険契約募集の際、Xが他の保険会社の保険募集を行ったことを理由になされた第二次解雇の効力も争われた)、第一次解雇については、原審と同様に、〔1〕については、共同募集としての取扱基準が不明確であった等として、〔2〕についてもXが不正な報告をしたという事実は認められないとして、無効とされたが、〔3〕第二次解雇については、Xの行為は賞罰規定の懲戒解雇事由に該当し有効であるとして、Yに対し、第一次懲戒解雇(それ以前に同様の理由により自宅待機命令となっていた日)から第二次懲戒解雇により解雇された日までのXの賃金支払が命じられて、原判決が変更された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
民法536条2項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
解雇(民事) / 解雇権の濫用
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
裁判年月日 2000年3月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ネ) 4829 
裁判結果 原判決変更(請求一部認容、一部棄却)(確定)
出典 労働判例805号131頁
審級関係 一審/07446/東京地/平11. 9.10/平成8年(ワ)15550号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 前記1(三)(1)及び同(四)の各保険契約を共同募集として報告することが本件賞罰規定7条5項11号に該当するか否かは、控訴人の取扱いの下で共同募集と報告することが許されていない場合であったか、許されない場合であったとして、許されないことを被控訴人が知り又は容易に知り得たか(故意又は重大な過失があったか)という観点から検討されるべきである。
 右観点から検討すると、控訴人は平成8年6月に作成した文書(〈証拠略〉)において共同募集を定義づけ、「一方が募集行為を行わなかったにもかかわらず、手数料を分け合うこと(共同取扱い)」は許さない旨通知したが、右規定も、賃金との関係で「募集」行為がどこまでの範囲を指すのかを具体的に明示するものではなく、「税理士市場ビジネス」における税理士の開拓行為が「共同募集」に当たらないことを例を挙げて説明するなどの措置は採られなかった。そして、それ以前には共同募集についての明確な定めがなかったことは、前記1(八)のとおりであり、また、本件で問題とされている保険契約の多くが横浜東オフィス在籍中の平成6年5月以前に成立したものであるが、当時、申込書等を点検すべき立場にあったAにおいて共同募集とすることには問題がある旨指摘した事実が認められないこと、控訴人が主張する初級課程テキスト(〈証拠略〉)の中にも共同募集の定義は記載されておらず、かえって、できるだけ信用のおける協力者を活用することが強調されていたこと、当時、「税理士市場ビジネス」と同様に、控訴人において、ドクタービジネスやバンクビジネスと呼ばれる分野でも、数人でチームを組んで、市場を開拓する役割と、紹介された見込客との間に生命保険契約を成立させる役割を分担し、控訴人に共同募集と報告することが行われていたこと、団体契約の場合に、個別の保険契約が成立すると、当該団体を開拓した控訴人社員は、個別の保険契約の募集活動に関与していなくても、共同募集者として扱うことを認めていることは、前記1(五)ないし(七)のとおりであって、これらの事実からすると、少なくとも平成8年6月以前には、どのような場合を共同募集として取り扱うのかの基準が不明確であり、したがって、前記1(三)(1)及び同(四)の各保険契約を共同募集として報告することが許されていなかったとまでは認められず、まして、許されないことを被控訴人が知り又は容易に知り得たとはいえないというべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 「税理士市場ビジネス」は、実質上、募取法に定める資格を有しない税理士が顧問先の法人に働きかけて保険契約を締結させる決定的な動機付けをすることになるのみならず、業務提携による報酬の支払を受けることが保険契約締結を勧める動機になり、その結果顧問先の法人の利益(ママ)が害しかねない危うさを有するものであるところ、被控訴人は、同一1(一〇)のとおり、私的に税理士と締結した業務提携契約に基づき、税理士に紹介された法人との間で保険契約を締結していたこと、そして、被控訴人は、税理士の紹介により保険契約が締結された場合には、税理士に多額の手数料を支払っていたこと、右のような形で紹介したB生命、C生命、D生命が法人との間で保険契約を締結した際、右各社の名義で税理士に手数料を支払ったこともあったこと、また、E、Fは、Gライフに対して法人を紹介したことにより、Hから、紹介料名目で金員を受領したことがあったこと、さらに、被控訴人は、B生命に関しては、被控訴人の妻が代理店をしていたこともあり、実質上、妻に代わって募集行為に関与することがあったこと、以上のような背景事情の下で、第2次懲戒解雇事由とされた被控訴人によるC生命及びGライフの保険募集行為がされたものであり、右行為は、必ずしも偶発的なものであると評価することはできない。そして、右事実によれば、本件にあらわれた他の一切の事情を考慮しても、第2次懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるとは認められない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
1 第1次懲戒解雇事由の存在が認められない以上、これを理由としてされた自宅待機命令も違法であったといわざるを得ないから、被控訴人は、平成8年1月24日から第2次懲戒解雇により解雇された平成11年10月15日まで、控訴人の責に帰すべき事由によって労務の提供をできなかったこととなり、民法536条2項本文により反対給付である賃金請求権を失わないというべきである。〔中略〕
 報酬は出来高払であり、被控訴人の平成7年の平均報酬月額は556万7545円であったから(前記第二の一5(一)及び同(三)(1))、他の事情の主張立証がない以上、被控訴人は、控訴人による平成8年1月24日以降の労務受領拒否がなければ、平成8年も同額の報酬の支払を受けることができたと推認するのが相当である。〔中略〕
 被控訴人は、控訴人に対し、平成8年3月分から平成11年7月分までの報酬2億2826万9345円(556万7545円×41か月)より平成8年3月分から同年6月分までの既払額合計420万7171円(前記第二の二5(四)(1))を控除した2億2406万2174円及びこれに対する原審の口頭弁論終結の日の翌日である平成11年7月31日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有することになる。