全 情 報

ID番号 07655
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 更生会社三井埠頭事件
争点
事案概要  港湾運送業等を営む株式会社Yの希望退職募集に応募し退職した元従業員Xら三名が、在職中に、Yが約束手形の不渡りを生じさせ経理に混乱が生じたことを理由に、管理職全員を対象に意思確認なしに賃金額の二〇%を調整金の名目で控除したことから、退職に先立ち「未払賃金に関する申込書」を管財人宛てに作成し、減額分の賃金支払を請求したが、管財人が右申込書を受領しなかったため、右減額分の未払賃金の支払を請求したケースで(なお、Yの就業規則には賃金控除を許容する規定はなく、賃金控除を許容する内容に変更する措置も採られていない)、Xらが賃金の減額について承諾したと認めることはできず、労働契約における最も重要な要素である賃金を使用者が一方的に減額することは許されないとして、請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 2000年6月9日
裁判所名 横浜地川崎支
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 606 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例809号86頁/労経速報1782号14頁
審級関係 控訴審/07701/東京高/平12.12.27/平成12年(ネ)3540号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 以上の事実によると、原告らの賃金の減額については、平成10年5月13日、更生会社前代表取締役が、原告X1及び同X2を含む管理職従業員に対して通告したことはあったものの、原告らがこれを承諾したと認めることはできない。
 これに対して、被告は、原告らが遅くとも平成10年10月25日には黙示の承諾をしたと主張するところ、原告X1と同X2が平成10年5月13日に賃金減額の通告を受け、原告X3もその後まもなくこれを知ったこと、右通告に対応する形で減額した賃金が継続して支払われていたこと、原告らが、更生会社の前経営陣あるいは被告や管財人代理らに対して直接異議を申し述べたことがないことの各事実が認められる。しかしながら、原告らが賃金減額について容認していることを表明した事実は認められないこと、かえって、原告X1は、平成10年10月ころには、人事部を通して減額措置の中止を申し入れ、平成11年3月には、原告ら3名が書面を作成してそれまでの減額分の支払いを求めた事実が認められること、更生会社の前経営陣からも、被告やA管財人らからも、原告らに対して賃金減額の措置について意思確認を求めたことはなかったことを勘案すると、原告らが賃金が減額されていることを認識しながら異議を申し立てなかったことをもって、賃金減額を黙示的に承諾していたものと推認することはできない。
 そして、労働契約における最も重要な要素である賃金を使用者が一方的に減額することは許されないから、被告には、平成10年5月分から平成11年3月分までに減額した賃金及びこれに対する各支払日の翌日から年6分の割合の遅延損害金を原告らに対して支払う義務があるというべきである。