全 情 報

ID番号 07661
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 日本臓器製薬事件
争点
事案概要  医薬品を製造・販売する会社Yの取締役兼支店統括部長の地位にあったXが、当時の営業部長からの勧めにより退職願を提出したが、Xは取締役兼東京支店長という重責にあり、販売促進費の決裁権者であったにもかかわらず、販売促進費の名目で会社の金員を高級クラブや料亭での飲食、遊興に流用したこと(ある年度だけでもその額は一八〇〇万円に及び、X名義の伝票だけでも約二七七万円になること)を理由に、懲戒解雇され、退職金及び企業年金を不支給とされたため、Yに対して〔1〕Xの退職原因は合意退職であり、また〔2〕すでに具体化している退職金等の請求権を後の懲戒処分をもってその支払を拒絶することは労基法二四条に違反し、さらに〔3〕本件懲戒解雇は無効であるなどと主張して、右退職金等の支払を請求したケースで、〔1〕〔2〕におけるXの主張は採用しえないとしたうえで、〔3〕についても、Xに対する懲戒解雇処分は社会通念上相当性を欠くものとはいえないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法3章
労働基準法11条
労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質
退職 / 合意解約
裁判年月日 2000年9月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 1437 
裁判結果 請求棄却
出典 労経速報1764号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 原告は、平成九年一〇月六日付けで、A専務に退職願を提出したことをもって、退職願が受理され、被告を合意退職したと主張するが、A専務の当時の役職は、医薬品営業本部長であったこと、被告では、役員を兼務する幹部社員の身分については、取締役会で審議し社長が決裁することになっていたこと(書証略)、原告は、A専務から求められて、退職届を提出したのであるが、A専務から退職届を受理したと言われたわけでなく、単に同人に退職届けを送付したにすぎないこと(原告本人)に照らすと、原告の退職願いが、平成九年一〇月六日の時点で受理され、原告が被告を合意退職したとまでは認められない。
 よって、原告の平成九年一〇月六日付け合意退職の主張は認められない。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金の法的性質〕
 原告は、平成七年六月に、被告の役員に就任した時点で、退職金等の支給を受け得たのであり、すでに具体化している右退職金等の請求権を、後の懲戒処分により失わせしめられることは労働基準法二四条に違反すると主張する。
 しかし、原告は、平成七年六月以降も被告の従業員たる身分を失っていない(書証略)。そもそも退職金等は、退職事由や勤続年数(加入期間)によりその有無・額が変動しうるものであり(退職金支給規則六条、八条三項、退職年金規約五条、六条、九条)、退職により発生しその額が確定するものである。従って、退職前に退職金等の債権が発生し具体化していることを前提とする原告の右主張は採用しえない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 確かに原告と同時期に仙台支店長も、同じ理由で懲戒解雇処分を受けていること(書証略)などに照らせば、かかる不正流用が被告において、一人原告のみが行っていた処理であるとはいえない。しかしながら、被告において名古屋支店長、福岡支店長の経験があるBは、被告においてかかる処理を行う慣行があったことを否定し(証拠略)また販売促進費についてかかる処理をすることを前提に会計監査が行われていたわけでもない(人証略)ことに照らせば、かかる取り扱いが被告の長年の慣わしであったとする原告の供述はたやすく信用しえず、他に原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
 4 以上、原告は、取締役兼東京支店長という重責にあり、販売促進費の決裁権者として本来こうした不正行為を防止し、その適正な使用を図らなければならない立場にあったにもかかわらず、その立場、職権を濫用し、ホステスと二人で、あるいはCら東京支店の限られた部長数名のものと高級クラブや料亭での飲食、遊興を繰り返していたのであり、原告らによる流用額は、平成八年度(平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで)だけで約一八〇〇万円に及び、そのうち原告名義の伝票分だけでも約二七七万円になること、Cら他の者については、それぞれ懲戒解雇を含め懲戒処分がなされており、これについて誰も異議を唱えていないことなどを考えると、原告に対する懲戒解雇処分は、社会通念上相当性を欠くものとはいえない。