全 情 報

ID番号 07665
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 中央タクシー(懲戒処分)事件
争点
事案概要  タクシー営業を行う有限会社Yは従前何ら規制をしていなかった駅入構(Yは駅構内に営業車を乗り入れて待機し、駅構内の乗場から順次乗車させる駅入構権を有していた)につき、隔日二交代勤務A・B両班をさらにグループ化する形で二班体制での入構規制を始めたところ、規制強化による営業収入の減少から組合員の歩合給も減少につながる可能性があったことから右規制につき労使間で対立が見られていたところ、さらにYは一方的に三班体制で駅入構を行う旨の業務命令を発し、長崎県タクシー労働組合X1の支部が労使協議による実施を求めたものの、これを拒否し、〔1〕Yでタクシー乗務員として勤務し、組合X1の支部で役職に就いていた組合員X2を、右業務命令に違反し、組合員を扇動して社内秩序を乱したことを理由に諭旨解雇処分とし、組合員X3~X5を一四日間の出勤停止処分としたことから、X2らがYに対し、右懲戒処分の取消の無効確認(X2は乗務員としての取扱も請求)及び右懲戒処分は不当労働行為に該当するとして不法行為に基づく損害賠償を請求し、また〔2〕組合X1がYに対し、不当労働行為による団結権侵害を理由に、不法行為に基づく損害賠償を請求したケースで、駅入構規制は組合員の労働条件に重要な影響を及ぼすものであるから、団体交渉事項であるとしたうえで、Yは二回の労使協議会に応じているものの、団交応諾義務を履行したとはいえず、同義務に違反して発せられた本件業務命令も権利濫用に当たり無効であるから、本件懲戒処分はいずれも無効であるとして、X2らの処分無効確認請求が認容され(X2の乗務員としての取扱を求める請求は棄却)、本件懲戒処分はX1支部の組合活動に対する嫌悪感から、X1支部を弱体化させる意図の下に行われたものであり、不当労働行為に該当し、かつ違法な行為として不法行為を構成するとして、X1~X5に対する慰謝料等の請求が一定限度で一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1項2号
労働組合法6条
民法536条2項
労働基準法11条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
裁判年月日 2000年9月20日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 118 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例798号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 本件労使紛争における駅入構規制の問題は、駅入構権そのものの改廃を目的とするのではなく、その行使方法を問題とするものであって、被告に処分権限のない事項でないことは明らかであり、また、駅入構規制の可否は、被告主張に係る「経営権」事項とはいえるものの、同時に、本件業務命令によって駅入構規制が強化されると、営業収入の減少、ひいては、組合員の歩合給や一時金の減額につながる可能性があり、組合員の労働条件に重要な影響を及ぼすものである。したがって、本件労使紛争における駅入構規制の問題は、労働組合法6条にいう団体交渉事項にあたるというべきである。
 これに対し、被告代表者は、本件業務命令による駅入構規制によって営業収入は増加すると供述する。しかしながら、右供述自体、裏付けを欠くものであるが(〈証拠略〉によっても、本件業務命令の実施により営業収入が増加したとはいえない。)、そもそも、被告が駅入構権を保有しているのは、駅構内は実車の機会が多く営業収入の増加が見込まれるからと考えられる。そうすると、駅入構の頻度が減少することによって営業収入が減少することは大いにありうることであって、その可能性がある以上、団体交渉事項として、組合との協議によって解決するのは当然のことである。〔中略〕
 本件労使紛争における駅入構規制の問題は団体交渉事項であるから、被告には、誠実に団体交渉に応じる義務がある。ところが、右認定の事実によると、被告は、2回の労使協議会に応じているものの、駅入構規制は経営権の問題であって団体交渉事項ではないとの認識の下に、一方的に不正確な資料を提出し、右資料に対する中央支部の疑問点には答えようとせず、2回目の労使協議会の後は、経営権をたてに取って団体交渉を拒否し続けたものであり、とうてい、被告が団体交渉に応じる義務を履行したとはいえない。そうすると、右義務に違反した上でなされた本件業務命令は、権利濫用というべきであって、無効である。したがって、原告ら4名が本件業務命令に違反したことをもって、本件就業規則の前記各規定に定める懲戒事由に該当するとはいえない。
 5 以上によると、原告ら4名になされた本件懲戒処分は、いずれも無効である。原告X1は被告の乗務員としての取扱いを求めるが、雇用契約においては、労働者の労務の提供は義務であって権利ではなく、雇用契約等に特別の定めのない限り、労働者に就労請求権はないところ、原告X1について、右の特別の定めがあったと認め得る証拠はないから、右請求は理由がない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 本件懲戒処分は無効である。そうすると、原告X1が就労できないのは被告の責めに帰すべき事由によるものであるから、同原告は民法536条2項本文によって賃金請求権を失わない。したがって、同原告は、本件諭旨解雇処分によって、賃金相当額の損害を被ったとはいえない。また、原告X2、同X3及び同X4についても、証拠(〈証拠略〉、原告X4)によれば、右原告らは、本件出勤停止処分による出勤停止期間中、賃金を支給されなかったことが認められる。そうすると、右原告らは、原告X1と同様、民法536条2項本文によって賃金請求権を失わないから、本件出勤停止処分によって、賃金相当額の損害を被ったとはいえない。〔中略〕
 被告における一時金は労働の対償であって、雇用契約上被告に支払義務のある「賃金」(労働基準法11条)にあたることが認められる。そうすると、原告X1は、前記賃金と同様、民法536条2項本文によって一時金請求権を失わないから、本件諭旨解雇処分によって、一時金相当額の損害を被ったとはいえない。また、原告X2、同X3及び同X4についても、右各証拠によれば、一時金は、夏季と冬季の2回支給され、いずれも、一律給、勤続給、家族給からなるが、夏季については、6か月間の営業収入が234万円を超えた乗務員を、冬季については、同じく240万円を超えた乗務員をそれぞれ有資格者として、いずれにも、成績給が付加されること、一律給については、夏季で、有資格者が14万7500円であるのに対し、未資格者は5万円であり、冬季では、有資格者が18万3500円であるのに対し、未資格者は6万円であることが認められ、右事実と、(証拠略)に照らすと、右原告らは、いずれも、未資格者として支給された一時金の額と、有資格者として支給されるべき一時金の額との差額の支払いを求めるものと解される。そうすると、右差額についても、民法536条2項本文によって、右原告らには一時金請求権があるというべきであるから、右原告らは、本件出勤停止処分によって、一時金相当額の損害を被ったとはいえない。