全 情 報

ID番号 07674
事件名 補償金支払等請求事件(1631号)、休職命令無効確認等請求事件(2437号)
いわゆる事件名 富国生命保険(第4回休職命令)事件
争点
事案概要  生命保険会社Yに雇用されていたが、医師から頸肩腕症候群と診断され約一年七ヶ月半ほど傷病欠勤して職場復帰し、その三ヶ月後、期間六ヶ月の求職(第一回)、続けて期間一年(第二回)、さらに期間一年(第三回)、そして引続き平成七年九月から期間一年間(第四回)の休職を命じられたXが、右傷害につき業務上災害の認定を受けているものの、Yがこれを業務上の災害とは認めていなかったことから、〔1〕業務上の災害による休業を業務外の災害による傷病欠勤として扱われたために、本来受けられるべきYの特別補償金規定に基づく補償金及び賃金(定期昇給されたものとして支払われるべき賃金額、不就労により控除された金額等)が支給されていなかったとして、既支給額を控除した残額等の支払を請求するとともに、〔2〕第四回休職命令が無効であることの確認、〔3〕安全配慮義務に基づく損害賠償の支払を請求したケースで(二度にわたる懲戒処分の効力についても争われた)、〔1〕については、Xは本件特別補償金規定における「業務上の災害による休業」という要件に該当するとしてXの傷病につき業務起因性が肯定され、定期昇給についても、欠勤者対象の昇給規定は適用されず、定期昇給が認められるとして請求が一部認容され(その余りについては請求を棄却)、〔2〕については、本件疾病の責任はXにはなく、疾病の程度も通常勤務に支障が生じる程度のものであったとは認められないことから、本件休職命令は、休職事由の不存在により無効とされて請求が認容されたが、〔3〕については、本件疾病の発症につきYの安全配慮義務違反は認められないなどとして請求が棄却された事例(なお、懲戒処分のうち、Yの事業所宛てにYを批判する文書のFAX送付を理由とする懲戒処分については無効とされたが、文書掲載によりYの信用及び名誉を毀損した行為を理由とする懲戒処分は有効とされた)。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働基準法89条1項8号
労働基準法3章
労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 労災上積み補償・特別補償協定
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 定期昇給
賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権
休職 / その他の休職
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 2000年11月9日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 1631 
平成7年 (ワ) 2437 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴後和解)
出典 労働判例805号95頁
審級関係
評釈論文 中災防安全衛生関係裁判例研究会・働く人の安全と健康3巻10号84~89頁2002年10月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 原告が昭和62年5月から担当した料金業務は、それ自体として上肢に過度の負担のかかる業務ではないものの、オンライン端末機の操作や書字作業、マークシート用紙への記入など上肢を用いる作業も相当程度含まれており、料金業務は、それまで間近で見ていた作業であっても、原告が自ら担当することは初めてであったこと、従前の業務に比べて正確が期されることなどによる精神的負担は軽いものではなかったことからすれば、料金業務の原告への肉体的、精神的負担は軽いものではなく、その負担は昭和63年4月からの料金業務の業務量の増大により更に増加したものと認められる。そして、原告の疾病は、昭和62年5月に腕の痛みを感じてから平成3年2月まで悪化を続け、休業後は緩やかではあるが軽快して平成4年5月には軽減勤務が可能な状態、同年9月には全日勤務が可能な状態にまでそれぞれ回復したのである。このような原告の業務の内容及び業務量、原告の症状の推移と原告の業務との対応関係等を前提とし、他に本件疾病の原因となる要因が考えられないことをも併せ考えると、原告の業務が本件疾病の発症の相対的に有力な原因となったというべきであり、原告の業務と本件疾病との間には相当因果関係が存在すると認めるのが相当である。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-労災上積み補償・特別補償協定〕
 本件補償金規定6条1項は、特別補償金の支給要件として、業務上災害により休業したことを要件としており、原告は、前記一認定のとおり、業務に起因した疾病によって休業に至ったものであるから、右要件に該当する。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-定期昇給〕
 右認定の事実を前提にすると、原告が傷病欠勤の申出をして休業したのは、業務上災害による休暇を取得するに必要な被告の承認が得られなかったからであるにすぎず、業務上災害による休暇であれば受けられたはずの定期昇給が、被告の承認がないために受けられないというのは不当である。
 業務上災害であるにもかかわらず、被告が業務上災害による休暇を承認しない場合には、傷病欠勤の手続をとらなければ給与の支給を受けることができないとすると、被告の恣意的取扱いを容認することになるから、就業規則30条1項(11)の要件を充たす場合において、業務上災害による休暇の取得の申出があったときは、被告が右申出を拒否することはできないと解すべきである。
 そうすると、本件において、原告は、前記認定のとおり、業務上災害による休暇の取得の申出を行っており、就業規則30条1項(11)の要件を充たすものと認められるから、業務上災害による休暇によって休業したものと捉えるのが相当であり、欠勤者の昇給の規定は適用されないものというべきである。〔中略〕
〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕
 賞与は給与とは別の支給基準に基づいて支給されるのであり、その請求権の発生原因は、給与請求権の発生原因とは異なるものであることが認められるから、給与についての別訴の既判力が本件における賞与請求に及ぶものではないというべきである。〔中略〕
〔休職-その他の休職〕
 就業規則48条1項(6)は、休職事由として、「その他前各号に準ずるやむを得ない理由があると会社が認めた場合」を挙げているので、同条項(2)ないし(4)の規定を参照すると、同条項(2)は、「事故欠勤が引続き1カ月以上にわたった場合」、同条項(3)は、「本人から休職の申し出があり、会社が必要と認めた場合」、同条項(4)は、「刑事事件によって起訴された場合」をそれぞれ挙げている。そうすると、右条項(1)ないし(5)は、職員からの休職の申出を前提とする同条項(3)を除き、いずれも、職員が、被告及び職員双方の責めに帰すべきでない事由により、又は職員の責めに帰すべき事由により、通常勤務を行うことに支障をきたす場合を休職事由と定めているものと解される。
 そして、被告が本件休職命令の理由として挙げた事項からすれば、被告は、原告に就業規則48条1項(1)の傷病休職に準じるやむを得ない事由があるとして、休職命令を発したと考えられるところ、同規則においては、職員が業務外及び通勤災害以外の傷病によって欠勤するときは、まず傷病欠勤として扱い、傷病欠勤の期間内に治癒しないときに初めて休職を命じるものとされていることに加え、前記認定のとおり、休職者には、その昇給について定期昇給とは異なる扱いがされる不利益があることを併せ考えると、傷病休職に準じるやむを得ない事由があるかどうかは厳格に解釈すべきであり、本件の場合、原告の本件疾病が治癒しておらず、その症状が再燃したり、増悪したりする可能性があるというだけでは足りず、原告の本件疾病が就業規則48条1項(1)の傷病欠勤の場合と実質的に同視できるものであって、通常勤務に支障を生じる程度のものである場合に、同条項(6)の休職事由があるというべきである。〔中略〕
 既に認定したように、原告は、約1年4か月にわたる傷病欠勤の後、全日勤務に支障がない旨のAの診断書を提出して出勤の申出をし、被告において検討した結果、被告は、通常勤務を行うことができると判断して傷病欠勤を解き、原告は、これに基づいて3か月間の通常勤務を行ったのであり、この間、原告は、週1回程度の通院治療を受けていたが特に疾病が悪化するようなことはなかったのであるから、平成5年3月1日の時点において、原告の欠勤の状況及び本件疾病の程度は、就業規則48条1項(1)の場合と同視できるような、通常勤務に支障を生じる程度のものであったとは認められない。さらに、原告の症状が休職以後悪化したことは認められないことや、Aが、平成6年8月25日にも、通常勤務に何ら支障のない状態であるとの診断書(〈証拠略〉)を作成していることをも併せ考えると、本件休職命令が発せられた平成7年8月31日の時点においても、就業規則48条1項(1)の場合と同視できるような、通常勤務に支障を生じる状況があったものとは認められない。
 したがって、就業規則48条1項(1)に準じるやむを得ない事由があるとはいえず、同条項(6)に該当する事由はない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 原告が掲載した右文章は、虚偽の事実をあえて記述するなどして、不当に被告を誹謗中傷するものであるということができ、しかも、右文章が掲載された「支援共闘ニュースNo.1」は、被告内部にとどまらず、一般人に広く配布されたものと認めることができるから、原告は、被告の信用又は名誉を棄損する行為を行ったものと認められる。〔中略〕
 原告は、「Y生命闘争の勝利をめざす支援共闘会議」発行の平成9年3月15日付け「支援共闘ニュースNo.1」において、「Yのマークは会社体質をあらわしている」と題する文章を掲載し、被告の信用及び名誉を棄損したのであって、原告の行為は懲戒事由に当たる。
 そして、右行為の表現内容及び表現態様等からすれば、右懲戒事由のみによっても、被告の行った懲戒処分が不当であるとは認められない。
 したがって、第2次懲戒処分は有効である。