全 情 報

ID番号 07695
事件名 退職手当請求事件
いわゆる事件名 香川県(中学校教師)事件
争点
事案概要  香川県の中学校で約三四年間理科の教師として勤務してきたXが、正規の授業終了後、クラブの特別練習の引率の時間まで昼食のために外出して乗用車を運転していたところ交通事故を起こし、業務上過失障害罪により起訴されて有罪判決(禁錮四月・二年間刑執行猶予)が確定したことを理由に、地方公務員法二八条四項及び一六条二項により当然に失職とされ退職手当が支払われなかったことから、主位的に本件事故は待機時間中に発生したものであり、公務もしくはこれに準ずる行為遂行中の事故であるから県の特別条例五条一項が適用されるべきであり、仮に本件事故が公務外の事故であってもXには右特別条例が準用ないしは類推適用されるべきであるから、当然失職を免れるべき情状の存否について分限手続がなされなければならなかったのであるから、本件失職は重大な失職手続を欠くものであり無効である、また公務外の事故の場合に右条例を準用ないし類推適用できないとすれば、地公法二八条四項の趣旨に反し、立法裁量権の逸脱にあたり無効であると主張して、退職手当、給与・賞与の支払を請求し、予備的に自己の退職手当の受給資格を排除した退職手当条例六条一項二号が憲法二五条に違反するとして退職手当の支払を請求したケースの上告審で、Xの請求を棄却した一審・原審と同様に、最高裁は、上告理由のうち、地方公務員法二八条四項・一六条二号及び退職手当条例六条一項二号の違憲(憲法一三条・一四条違反等)の主張について、右規定はその目的に照らして必要かつ合理的なものであり、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、合憲であるとして、Xの上告を棄却した事例。
参照法条 地方公務員法28条4項
地方公務員法16条1項2号
日本国憲法13条
日本国憲法14条1項
体系項目 退職 / 失職
裁判年月日 2000年12月19日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (行ツ) 164 
裁判結果 棄却(確定)
出典 時報1737号141頁/タイムズ1053号87頁/裁判所時報1282号3頁/労働判例802号5頁/判例地方自治210号63頁
審級関係 控訴審/高松高/平10. 3.27/平成9年(行コ)3号
評釈論文 横田守弘・法学セミナー46巻7号108頁2001年7月/花見常幸・平成12年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1202〕10~11頁2001年6月/佐伯彰洋・月刊法学教室250号118~119頁2001年7月/小畑史子・労働基準54巻3号22~26頁2002年3月/村井龍彦・民商法雑誌125巻2号69~73頁2001年11月/福島力洋・判例セレクト’01〔月刊法学教室258別冊付録〕7頁2002年3月/和久井孝太郎、江原勲・判例地方自治213号4~6頁2001年7月
判決理由 〔退職-失職〕
 地方公務員法28条4項、16条2号は、禁錮以上の刑に処せられた者が地方公務員として公務に従事する場合には、その者の公務に対する住民の信頼が損なわれるのみならず、当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼も損なわれるおそれがあるため、このような者を公務の執行から排除することにより公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。地方公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならず(憲法15条2項、地方公務員法30条)、また、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(同法33条)など、その地位の特殊性や職務の公共性があることに加え、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに照らせば、地方公務員法28条4項、16条2号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上右のような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえず、右各規定は憲法13条、14条1項に違反するものではない。〔中略〕
 禁錮以上の刑に処せられたため地方公務員法28条4項の規定により失職した者に対して一般の退職手当を支給しない旨を定めた条例6条1項2号は、禁錮以上の刑に処せられた者は、その者の公務のみならず当該地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を損なう行為をしたものであるから、勤続報償の対象となるだけの公務への貢献を行わなかったものとみなして、一般の退職手当を支給しないものとすることにより、退職手当制度の適正かつ円滑な実施を維持し、もって公務に対する住民の信頼を確保することを目的としているものである。前記のような地方公務員の地位の特殊性や職務の公共性、我が国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情の下における禁錮以上の刑に処せられたことに対する一般人の感覚などに加え、条例に基づき支給される一般の退職手当が地方公務員が退職した場合にその勤続を報償する趣旨を有するものであることに照らせば、条例6条1項2号の前記目的には合理性があり、同号所定の退職手当の支給制限は右目的に照らして必要かつ合理的なものというべきであって、地方公務員を私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえないから、同号が憲法13条、14条1項、29条1項に違反するものでないことは、当裁判所の前記各大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。