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ID番号 07717
事件名 懲戒処分無効確認等請求事件(110号)、損害賠償請求事件(294号)、地位確認賃料支払請求事件(25
いわゆる事件名 岡惣事件
争点
事案概要  生コンクリート製造販売業等を営む株式会社Yの従業員であるX1ら一八名が全日本建設運輸連帯労働組合支部X2の組合分会X3を結成して、労働条件に関する団体交渉に誠実に対応しなかったYに対し、その要求実現のためにミキサー車を占拠して生コンクリートの製造設備を使用させないなど複数回種々の組合活動を行ったことに対し、Yは譴責のほか分会長には一ヶ月の出勤停止等の懲戒処分を行い、またストライキ解除通告後の労働時間につき賃金を支給せず、さらに他の従業員に比較して低額な一時金しか支給しなかったことが不当労働行為であるとして、1.〔1〕X1がYに対し懲戒処分の無効確認及び不支給賃金の支払を請求し、〔2〕X1及びX2が不法行為に基づく慰謝料等の支払を請求し(甲事件)、2.X2が行ったストライキにおいてX1らがミキサー車を占拠して約六時間四〇分にわたり製造設備を使用させなかったことは正当な争議行為とはいえず違法な業務妨害であるとして、YがX2・X2委員長及びX3・X3分会長に対し不法行為による損害賠償の支払を請求し(乙事件)、3.X1ら四名が経営悪化を理由になされた整理解雇は合理的理由がなく、かつ不当労働行為にも該当し無効であるとして、雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求した(丙事件)ケースで、1.については、〔1〕Xらの行為は正当な争議行為ではなく、譴責処分は有効であるが、分会長に対する出勤停止処分は処分の平等性、相対性を欠き無効、またスト解除後のスト参加者に対する労務受領拒否については民法五三六条二項により賃金が支払われるべきであるとし、〔2〕分会結成後の組合員への一連の取扱いは不法行為に該当するとして、請求が一部認容、2.については、業務妨害行為についてX2及びX2委員長の不法行為責任のみが認められて請求が一部認容、3.については、本件整理解雇はいずれも四要件を充足せず解雇権の濫用にあたり、また不当労働行為に該当するとして、請求が一部認容(一部却下)された事例。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
民法536条2項
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 受領遅滞の解消と賃金請求権
裁判年月日 2001年2月15日
裁判所名 新潟地長岡支
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 110 
平成7年 (ワ) 294 
平成10年 (ワ) 257 
裁判結果 一部認容、一部棄却、一部却下(控訴)
出典 労働判例815号20頁
審級関係 控訴審/07822/東京高/平13.11. 8/平成13年(ネ)1680号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-受領遅滞の解消と賃金請求権〕
 平成6年12月12日午後3時にストライキを解除した趣旨は、当日の生コンクリート出荷分が翌日に回されたり、他業者に割り振られたためであると認められ、これを踏まえ、被告会社は「業務遂行が終日不能となった」のでストライキ参加者の就労を拒否したと主張する。
 右主張は、生コンクリート出荷が不能となれば、被告会社には(ストライキの後始末以外の)業務が存在しないという前提にたつものと理解できる。しかし、被告会社専務(当時)のAは、別の場面では、生コンクリート出荷が終了した従業員に洗車作業を命じたり(〈証拠略〉、前記二2の事実(四))、生コンクリート出荷がなく待機中の従業員に車両整備作業を命じること(〈証拠略〉、前記二2の事実(二))を被告会社の正常な業務と理解しており、少なくとも車両整備作業は、生コンクリート出荷を前提とせず、被告会社において当時日常的に従業員に命じるべき業務といえる。
 これに限らず、被告会社を巡る就労環境においては、一般清掃作業や翌日の出荷作業の準備等、種々の付随的業務が存在すべきことは明白で、被告会社代表者(A)は、これら付随的業務の存在及びその必要性を慎重に検討しないまま、労務提供の準備がある原告組合分会の組合員(原告X1 22頁)に対し、前記第二の二3(四)の取扱いをしたと認められる(同代表者(平成11年2月17日実施)56頁以下)。
 以上によれば、終日一切の業務を不能ならしめたともいえず、にもかかわらず、労務提供の用意がある処分対象者らからの労務受領を拒絶したものであるから、被告会社は民法536条2項により、別表2原告認容額一覧「2時間分」欄記載の各金員を支払う民法上の責任を負う。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 結局、被告会社が「経営の悪化」と述べる数字はいずれも説得力を欠き、本件整理解雇当時、さらには本件予備的整理解雇当時における被告会社の資産状況、資金繰り、経常収支の実態は、本件証拠上不明というほかなく、整理解雇の前提としての全体・部門別の経営の困難性を認めるには不十分である。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 被告会社は、本件整理解雇当時、整理解雇以外の実効性を有すべき費用削減手段を真摯に検討することなく、前記第二の二4の本件整理解雇を行ったと認められる。
 さらに、前記1のとおり、本件予備的整理解雇の当時においても、被告会社の生コン部を縮小すべき必要性を認めるに足らず、仮にこの必要性があるとしても、「株式会社Y1組織図」(丙事件・〈証拠略〉)の内容の組織改革の結果、どのような費用項目の削減にどのように繋がったのか、証人Bや被告会社代表者(Y2)の供述内容に照らしても、その実態は依然として不明で、被告会社が整理解雇回避の努力義務をはたしたとの結論には至らない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 本件解雇基準そのものの合理性を検討するうえで、このような「全体的な了解」を欠く状況に照らせば、その意味内容の理解は、それ自体の文言を合理的に解釈するものでなければならない。また、右のとおり原告組合支部等に示された本件解雇基準が被告会社によって恣意的に適用されることはもとより許されず、このことはいかなる規模及び背景を持つ事業主であっても当然のことであるから、右基準中の「2、勤務状況に問題のある者」「3、会社に対する貢献度の低い者」(丙事件・〈証拠略〉)の意味内容及びその適用に関しては、欠勤日数、遅刻回数等の数値化できる「勤務状況」、生コンクリート運搬数量や運搬回数、会社の勤続年数等の数値化できる「会社への貢献度」という客観的要素と、懲戒処分を含む規律違反の有無や人事査定等の主観的要素とをあわせ考慮して、整理解雇の候補者となる順序を決め、費用対効果の視点から必要最小限の順位までに選定数を抑えるべきものと解するのが相当である。
 しかしながら、取締役(常務)Bは、「2、勤務状況に問題のある者」「3、会社に対する貢献度の低い者」の意味をもっぱら「服務規律に違反をしているような人や成績に問題のある人」(B45頁)としか想定しておらず、整理解雇の候補者となるべき順序を割り出す努力がなされた形跡も全くないから、本件解雇基準の実際への適用状況は、もっぱら規律違反の有無や人事査定等に基づく、多分に主観的で合理性に乏しいものであったというほかはない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 被告会社は、本件整理解雇に際し、その必要性とその時期、規模、方法につき、原告組合支部に対して納得を得るため積極的に説明したり、原告組合支部が必要な経営資料や具体的な数字を要請すれば、必要な範囲で可能な限り提示し、提示に応じられなければ個別に誠実に理由を説明したものということはできない。その対応は、あくまで前提としての「経営権」を想定し、経営事項を包括的に秘匿する(労働法に優先する)姿勢といわざるを得ず、互いに具体的な数字(部門別・費用別)に基づき客観的かつ冷静に整理解雇の必要性を労使間で協議し、指図ではなく提案と説得を試みるという状況からは遠いものである。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 被告会社による本件整理解雇及び本件予備的整理解雇は右で検討した4要件をいずれも満たさないものであって、解雇権濫用の故に無効といわざるを得ない。