全 情 報

ID番号 07733
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 友栄事件
争点
事案概要  飲食店業務を営む会社Yの経営する飲食店の店長として勤務していたXが、部長及び次長から、店舗への宿泊を止めるよう説得されたが、その説得を受入れないなどを理由にその場で即時解雇する旨の告知がなされ(本件解雇)、部長がY代表者にその旨を報告後、開催された取締役会で〔1〕会社の意思に反し、寝具等の私物を店舗内に持込んで常備させた上、長時間にわたり店舗内で頻繁に宿泊し、会社の所有物である同店舗を宿泊施設として私用に供していたこと、〔2〕宿泊時には自動警備システムを稼動させず、故意に盗難等の危険を発生させていたこと、〔3〕店舗内での宿泊を止めるようにとの会社の再三の指示に従わず、今後も従わないことを明らかにしたことは就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして、全員一致で懲戒解雇する旨の決議がなされ、これをXに通告したことから、XがYに対し、右懲戒解雇は手続の点及び解雇事由の観点からも無効であると主張して、雇用契約上の地位確認及び賃金の支払を請求したケースで、部長及び次長からの本件解雇告知後、取締役会で解雇を懲戒解雇とする旨の決議をしてXに通知しているが、本件解雇はあくまでも懲戒解雇として通知されたものではないことから、懲戒解雇事由の有無や懲戒解雇としての相当性を論じるまでもなく、解雇を懲戒解雇としてその有効性を判断する余地はないとしたうえで、Xがなしてきた常習的な店舗宿泊という行為の性質、その期間、Yの注意指導に対するXの対応や反省の態度等を総合考慮すると、Xに対する本件解雇には客観的にみて合理的な理由があると認められ、本件解雇は有効であるとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務妨害
裁判年月日 2001年3月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 7482 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1767号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 右認定事実によれば、本件解雇は懲戒解雇として告知されたものでないことが明らかである。被告では、本件解雇告知後の取締役会で右解雇を懲戒解雇とする旨の決議をし、これを原告に通告(本件通告)してはいるが、本件解雇が有効であるとするならば、それによって原被告間の雇用関係は既に終了していることになり、さらに被告が重ねて(懲戒)解雇をなし得るとする余地はない。被告の取締役会での決議や本件通告は、本件解雇の意思表示を撤回し、改めて懲戒解雇の意思表示をするというものではなく、あくまで本件解雇を前提として、事後の決議等でこれを懲戒解雇とするという趣旨のものであって、このような解雇後の決議等により、懲戒解雇としてではなく本件解雇が告知されたという事実が翻るものでもなければ、懲戒解雇の意思表示がなされたことになるものでもない。また、懲戒権はあくまで労使関係が存続していることを前提として使用者に認められるものであり、労使関係終了後は、もはや使用者の懲戒権行使を容認する前提が喪失されているというべきであるし、労使関係終了後にした懲戒処分に遡及的な効力を認めることは、労働者の地位を著しく不安定にするのみならず、就業規則等に定めた懲戒権行使の要件遵守や適正手続の要請などをも潜脱しうることとなって、実質的に見ても著しく不合理というべきである。
 以上によれば、懲戒解雇事由の有無や懲戒解雇としての相当性を論じるまでもなく、本件解雇を懲戒解雇としてその有効性を判断する余地はない〔中略〕
〔解雇-解雇事由-業務妨害〕
 右認定事実によれば、原告はすでに平成八年八月に服部店の寮を出た後ころからしばしば曽根店店舗に宿泊するようになったのであるが、曽根店店舗は社員の宿泊など予定しているものではなく、非常やむを得ない例外的な場合であるならともかく、そこに重ねて泊まり込むなどという行為が防犯、防災、さらには飲食店舗としての衛生の観点から許されないものであることは通常人の常識の範囲に属することであり、就業規則で禁じている会社施設の私的供用行為にも該当するというべきであって、原告自身もそのような行為が許されないことも当然理解していたはずである。しかるに、原告は、店長として社員を指導する立場にありながら、寝具その他の生活用品まで持ち込んでおり、平成一一年になると宿泊も頻繁になっていたというのであって、店舗を半ば住居代わりに使用していたものというほかないし、しかも、宿泊時には、常にではないとしても自動警備システムを作動させておらず、店舗管理上極めて問題のある行為というべきであり、このような長期間にわたる常習的な店舗宿泊行為は強い非難に値するものというほかない。
 原告は、被告から再三の注意などを受けてはいないと主張するが、右認定のとおり、次長Bは本件解雇までに重ねて注意を与えてきていたし、それにもかかわらず、原告はこれを改めることはなかったばかりか、本件解雇の告知時には、部長Aや次長Bの説得に対して、原告は反抗的な返答をするばかりで遂に宿泊をやめることを確約することはなかったのであるから、被告が、もはや原告には自主的改善は期待できないと判断して本件解雇を告知したことはやむを得ないことというべきである。
 これに対し、原告は、被告に格別の損害を与えていないことや住宅手当の低廉なこと、通勤に不便なこと等を主張して自らの行為を正当化しようとするが、店舗への常習的な宿泊行為は、右のとおり、主として防犯、防災、衛生、会社施設の私的供用といった店舗管理上の観点から問題があるのであって、現実の損失を与えていないということで正当化できるものではないし、経済的損失の点でみても、原告の宿泊に伴って生じる光熱費等や警備会社へ支払わなければならない自動警備システムの対価などの現実の損害が皆無というものではない。また、住宅手当などの福利厚生費が低廉という点は、果たしてそうであったとしても原告のみに限ったことではなく、労使間で解決されるべき被告の全体としての賃金政策の問題であるし、通勤の不便は原告の個人的な事情にすぎず、これらも到底店舗への常習的宿泊行為を正当化する根拠となりうるものではない。