全 情 報

ID番号 07755
事件名 地位確認・損害賠償請求事件
いわゆる事件名 サンデン交通(貸切乗務外し)事件
争点
事案概要  道路運送事業等を目的とする株式会社Yには従業員七九名で組織する組合X1と従業員四八二名で組織された組合Aが存在していたところ、組合Aを脱退して組合X1に加入したバス運転手X2ら六名が、Yから貸切バスの乗務(定期バスに比較して時間外手当の受領額などの点で有利になっているほか、特に四〇歳以下の運転手の間で仕事の張合いや運転手としての能力向上を求める気持ちから比較的人気があった)に就かせない措置を採られたことから、これは組合X1及びX2らに対する不当な差別であり、不法行為を構成するとして、XらがYに対し、損害賠償の支払を請求したケースで、本件措置はXらに対し、精神的、経済的に不利益を与えるものであり、労組法七条一号所定の「不利益な取扱」に該当し、不法行為上も特に特段の事情のない限り、違法であるとの評価を受けるというべきところ、X2ら運転手が個々に有する団結権、人格権、経済的利益を侵害するものであり、X2らが組合X1に加入したことを唯一の理由として行われたのであり、X1の団結権をも侵害するなどとして、請求が一部認容された事例。
参照法条 日本国憲法28条
労働組合法7条
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2001年5月9日
裁判所名 山口地下関支
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 390 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例812号39頁/労経速報1795号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告ら運転手は、いずれも40歳代以下と認められるから、その世代に即して本件措置の不利益性を考えなければならないところ、前記1の事実に関しては、なるほど、貸切乗務に就くに当たっては、接客その他の面においてそれなりの教習を経る必要があるものの、それにしても、1日講習、1日実習といった程度のことであり、格別の技能、技術を習得しなければならないわけではないから、「貸切」の運転手と「定期」の運転手との間に人格権侵害を云々するほどの価値的相違があり、「貸切」の運転手から「定期」の運転手に変わることが不利益であると認めることはできないけれども、前記2、3の各事実に関しては、前記アンケートの結果に徴しても、客観的にみて、これが運転手としての仕事の張り合いを支える重要な要素であり、日々の乗務の意欲や興趣に影響を及ぼし、ひいて、職業人としての誇りと責任をも培うべき勤務条件であることは明らかであり、何ら合理的な理由がないのに、それを希望しない者を敢えて「貸切」の運転手から「定期」の運転手に変えることは、当該運転手を「くさらせる」とともに、運転手仲間において、その運転手の何らかの「不始末」を意識させるに足りる精神的な不利益取扱たる性質をぬぐえない(なお、「定期」の運転手に関してであるが、被告が永年にわたって原告組合所属の運転手に新車を配車せず、配車差別を行っていることは、〈証拠略〉により、また、その原審裁判所である当裁判所に明らかである。)。更に、前記4、5の各事実に関しては、これが経済的な不利益であることは多言を要しないところである。
 以上のとおりであり、本件措置は、原告ら運転手に対し、精神的、経済的に不利益を与えるから、労働組合法7条1号所定の「不利益な取扱」に該当し、したがって、不法行為法上も、他に特段の事情のない限り、違法であるとの評価を受けることになるというべきである。〔中略〕
 1 以上のとおり、原告ら運転手は、違法な本件措置により、憲法及び労働組合法によって私法的にも保障された団結権を侵害され、また、人格権や時間外手当の減少による経済的な不利益をも来して相当の精神的苦痛を受けた。右苦痛を慰謝するには、被告に対し、原告ら運転手各自について、それぞれ金80万円の慰藉料の支払を命じるのを相当と認める。
 なお、原告ら運転手は、別紙1、2の諸事情に従い、原告X1及び同X2、原告X3及び同X4、原告X5及び同X6ごとに分けて異なる賠償金額を請求しているが、原告ら運転手の求める賠償は、あくまで慰藉料であって経済的な不利益それ自体に対するものではなく、しかも、右慰藉料は、本件措置が採られた時期と理由とに鑑みると、団結権侵害を中核としてとらえるべきものであるから、全員につき一律の賠償金額を認容するのを相当と認める。
 2 次に、原告組合も、違法な本件措置により、原告組合固有の団結権を侵害され、組織の拡大ないし維持を妨害された上、労使間の法秩序たる不当労働行為禁制によって自主的労働者集団である原告組合が当然享受しているはずの組合と組合員との一体不可分性ないしこれから生ずる主観的・客観的感情利益をも侵害された。そして、本件措置が採られた時期と理由及び前記指摘の配車差別とに鑑みると、本件措置は、単に故意による不法行為というにとどまらず、いわゆる悪意による不法行為たる性質を有している。右の事情を考慮すると、被告に対し、いわゆる無形損害として、原告組合に金150万円の支払を命じるのを相当と認める。