全 情 報

ID番号 07767
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 十和田運輸事件
争点
事案概要  運送会社Aから営業譲渡を受けて設立した貨物運送等を業とする株式会社Yの従業員で家電製品の各小売店への配送業務に従事していたXら二名(労働組合分会の組合員)が、運送先の店舗より家電製品の払下げを受けて有限会社Bのリサイクル部に搬入し代価を受けていたこと、右行為が勤務時間中にかつYの車両を使用して行っていたことが、職務専念義務違反・就業規則各規定に違反するとして、懲戒解雇されたことから、右解雇は無効であると主張して、雇用契約上の地位確認及び賃金支払を請求したケースで、右就業規則はAの就業規則であったところ、本件解雇に係る通知書に示された根拠条文の摘示は解雇とは全く無関係のものであり、これらが誤記であることに合理的説明がないこと等を理由に、Yは本件解雇当時、本件就業規則の存在を認識していなかったとしたうえで、本件解雇当時右Aの就業規則以外の就業規則が存在することについての立証がないことからすれば、本件解雇当時、Yには就業規則は存在しなかったというほかないところ、懲戒解雇は原則として就業規則等の規定を前提として初めてこれを行うことができると解されることに照らせば、本件解雇当時、従業員を懲戒解雇できなかったというべきであるから、本件解雇は懲戒解雇としては無効であり、またXらの行為につき、Xらが職務専念義務に違反し、あるいはYとの間の信頼関係を破壊したとまではいうことができないとして、本件解雇は普通解雇としてみた場合であっても、無効であるとして、地位確認請求及び賃金の支払請求が一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働基準法89条1項9号
民法627条1項
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の根拠
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
解雇(民事) / 解雇事由 / 二重就職・兼業・アルバイト
裁判年月日 2001年6月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 23043 
裁判結果 一部却下、一部認容
出典 労経速報1779号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の根拠〕
 被告において、本件各解雇当時本件就業規則以外の就業規則が存在することについての主張、立証のない本件においては、本件各解雇当時、被告には就業規則は存在しなかったというほかはなく、懲戒解雇は、原則として就業規則等の規定を前提として初めてこれを行うことができると解されることに照らせば、被告は、本件各解雇当時、従業員を懲戒解雇することはできなかったというべきである。
 よって、本件各解雇は、懲戒解雇として無効である。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 懲戒解雇以外の類型による解雇(以下一般の用例に従い、これを「普通解雇」という)が懲戒解雇よりも労働者にとって有利であると考えられる場合もある(一般にはそのような場合が多いものと考えられる)から、懲戒解雇の意思表示を普通解雇の意思表示に転換したものとみることが必ずしも不相当であるとまではいえないものと解される。もとより、この場合であっても、使用者が懲戒解雇に固執しないとの限定が付される必要があるが、本件において、被告が懲戒解雇に固執しないことは明らかであるから、本件各解雇の意思表示は普通解雇の意思表示とみることができる余地もあるというべきである。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-二重就職・兼業・アルバイト〕
 原告らが行った本件アルバイト行為の回数が(3)ウの程度の限りで認められるにすぎないことに、証拠(書証略、原告X1本人、原告X2本人)及び弁論の全趣旨を併せ考えれば、原告らのこのような行為によって被告の業務に具体的に支障を来したことはなかったこと、原告らは自らのこのような行為についてCが許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたこと(原告らは、C自身が、Yの代表者として、このような行為を了承していた旨主張し、上記各証拠中にはこれに沿う部分があるが、反対証拠もある(書証略、被告代表者本人)ことに照らせば、これを認めるには至らない。しかし、そうであるからといって、原告らが上記のような認識を有していたとの認定は妨げられない)が認められるから、原告らが職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない。
 (6) 以上の次第であって、本件各解雇を普通解雇としてみた場合であっても、本件各解雇は解雇権の濫用に当たり、無効である。