全 情 報

ID番号 07792
事件名 公務外認定処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 地公災基金群馬県支部長(桐生市消防職員)事件
争点
事案概要  勤務日と非番日を交互に設定されて勤務していた消防吏員であったA(当時四一歳、高脂血症、多量の喫煙習慣、肥満等あり)は、夕方に来訪者から顔色が悪いと指摘されていたものの、消防署内で勤務を続け、午前二時三〇分ころ仮眠していたところ火災出動指令により起こされ、消防車に乗り込んだ直後、全身痙攣状態となり、急性心不全により死亡したため、Aの妻Xが、Aの死亡は公務上の死亡であるとして、地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定を請求したところ、地方公務員災害補償金群馬県支部長Yにより公務外認定処分がなされたため、右処分の取消しを請求したケースの控訴審(X控訴)で、原審は請求を棄却していたが、Aは死亡約九ヶ月前の消防大学校入校前において冠動脈硬化症に罹患していた蓋然性は否定できないが、それが特段の誘因がなくても心筋梗塞を発症する程の重篤な状態であったものとは認められず、消防大学入校後は、大学校における訓練、一〇年ぶりの消防・救急業務への変更、この間の二四時間交代制勤務の生理的、肉体的負担により急速に冠動脈硬化症を増悪させたものであり、また仮眠中の出動は心臓に大きく、かつ急激な負担をもたらすとの指摘があること等からすれば、火災出動作業による負荷がAの基礎疾患をその自然的経過を超えて増悪させ、その発症の誘因となったものとみるのが相当であり、Aの死亡は交替制勤務の消防署員の公務に内在する危険が現実化した結果でみることもできるから、Aの死亡と公務との間に相当因果関係を肯定することができるとして、Xの控訴が認容されて、原審が取消された事例。
参照法条 地方公務員災害補償法31条
地方公務員災害補償法42条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 2001年8月9日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (行コ) 99 
裁判結果 認容(上告)
出典 労働判例815号56頁
審級関係 一審/07643/前橋地/平12. 1.28/平成8年(行ウ)5号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 地方公務員災害補償法31条及び42条の「職員が公務上死亡した場合」とは、職員が公務に起因して死亡した場合、すなわち、公務と職員の死亡との間に相当因果関係がある場合を意味する。この相当因果関係は、職員の死亡が公務を唯一の原因又は相対的に有力な原因とする場合に限らず、当該職員に基礎疾患があった場合において、公務の遂行が基礎疾患をその自然の経過を超えて憎悪(ママ)させて死亡に至ったとき、又は公務に内在する危険が現実化して死亡に至ったときにも、これを肯定することができるというべきである。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 Aは、平成4年5月13日、南分署において、前日からの勤務に引き続き仮眠室で仮眠していたところ、午前2時30分頃、火災出動指令を受けて起床し、直ちに駆け足で待機室に行って、帽子と上着を着用し、火災現場を確認し、乗車する消防車の鍵を保管場所から取り、長靴、防火衣、ヘルメットを消防車に積み込み、消防車の鍵を上司に渡し、救急車のAVMを操作し、消防車に乗り込んだ。その直後に、Aは、全身痙攣状態となり、本件疾病を発症し、同日午前3時20分、急性心不全により死亡した。
 一般に、24時間勤務の交代制勤務中の消防署員の心拍数は、出動指令があった場合、上昇するが、特に夜間仮眠中に出動指令があった場合には、その心拍数は急上昇し、昼間の出動に比べて、上昇の絶対値が大であるばかりでなく、その上昇速度も急激であり、仮眠中の出動は、心臓に大きく、かつ、急激な負担をもたらすと指摘されている。そして、証拠(〈証拠略〉、当審証人B)によれば、Aの場合においても、仮眠中の火災出動という緊迫した場面でのストレスと急激な労作が交感神経亢進状態をもたらし、血圧を急上昇させ、相当程度憎悪(ママ)していた冠動脈硬化症により既に形成されていた冠動脈のプラークの破綻をもたらすとともに、交感神経亢進状態の関与による心室性不整脈が急激な心停止をもたらしたと見るのが相当というべきである。したがって、Aの死亡については、上記火災出動の作業が本件疾病の誘因となったものというべきである。〔中略〕
 Aの本件疾病の発症の誘因となった火災出動の作業は、交代制勤務の桐生市消防署員の基本的業務である。そして、南分署における1日の出勤者は6名であり、その勤務割は1月程度前に定められており、勤務当日になって休暇を取得する場合には、欠員のままとするか、又は非勤務日の職員のうちから代替者を出勤させるかについて、桐生市消防署長の指示を得る必要があったから、南分署第2係長の職にあったAが、死亡の前日の夕刻、来訪者から顔色が優れないことを指摘されるような状態にあっても、ただちに休暇の許可を得ることができなかったものと容易に推認することができる。したがって、本件疾病に基づく急性心不全によるAの死亡は、交代制勤務の消防署員の公務に内在する危険が現実化した結果であるとみることもできるのである。
 以上に検討の結果によれば、Aの死亡と公務との間に相当因果関係の存在を肯定することができるから、Aの死亡は、地方公務員災害補償法31条及び42条の定める「職員が公務上死亡した場合に」に該当するというべきである。