全 情 報

ID番号 07809
事件名 従業員地位保全仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 コーブル・ファーイースト事件
争点
事案概要  繊維機械の製造販売・輸出入等を目的とする株式会社Y(従業員数9人)で主として事務全般業務に従事してきた従業員Xが、Yでは受注の減少、価格競争の利益率の低下・Yの機械の競争力喪失などから業績が年々悪化し経常利益が損失計上となっていたため、経費削減策が講じられていたものの、次期には大幅な赤字経営となることが判明したところ、Yから解雇する旨の通告がなされたため、全大阪産業労働組合に加入し、Yの他の従業員とともに、右労組の分会を結成し、Yとの間で2回にわたり本件解雇等につき話合いを行い、組合委員長とともに、Yに対し解雇撤回を求めたが、これを拒否され、結局、進展がないまま交渉が終了したため、本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、従業員たる地位にあることを仮に定めること及び賃金の仮払いを請求したケースで、本件解雇は客観的に見て合理的な理由を有することの一応の疎明があり、解雇権の濫用に当たるとは認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 2001年9月18日
裁判所名 大阪地堺支
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 92 
裁判結果 却下
出典 労経速報1791号13頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 上記1認定の事実によれば、一九期から、債務者が本件解雇を決意した時期に至るまで、債務者の業績は悪化の一途をたどっており、この傾向は一時的なものではないと予想されたこと、平成一三年三月時点での二二期の合理的な売上予想額からすると、それまでの経費削減策では、その後も赤字経営が続くことは明らかで、債務者の収支を均衡させるためには、人件費の削減にも踏み込む必要性があったことが一応認められる。
 したがって、債務者において、その経営上、人員削減の必要性を認めるに足りる合理的な理由があったものというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者は、平成一二年一月から同一三年一月にかけて、別紙「経費削減の実施内容」番号一ないし八記載のとおりの経費削減の努力をしてきたこと、小規模で各職種に熟練した従業員が存在する債務者会社において、予め希望退職の募集及び配置転換を行わなかったことは必ずしも是認できないものではなく、本件解雇後の全従業員の給与カットの措置(別紙「経費削減の実施内容」番号一〇記載の内容)は、さらに業績が悪化した債務者が、会社の解散をも覚悟して全従業員に計った結果であり、本件解雇前にそのような提案をしなかったとしても不当とは言えないことが一応認められる。
 そうすると、債務者は本件解雇を回避するための相当な努力を尽くしたものというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 上記1認定の事実によれば、債務者が、本件解雇後に会社に残した従業員は、その仕事内容からして、いずれも債務者の業務遂行には不可欠な人材であるといえること、特に、Aにつき、同人が経理等の専門知識を有し、銀行取引等の資金繰り業務を担っていることなどからすれば、この点に関する債権者の主張を考慮しても、債権者に比し、代替性に乏しいものであったことが一応認められる。
 したがって、人選の合理性も認められるというべきである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 上記1認定の事実によれば、債務者は、債権者に対し、平成一三年三月六日に突然の解雇予告を行ったこと、その際には法定の予告期間に満たない同月末日までで解雇する旨述べた上、解雇理由につき資料を示すなどして十分な説明を行ったとはいえないこと、同月二六日の分会結成通知の提出の際、債権者らを追い返すなどしたこと、退職金の具体的な金額につき不明瞭な発言をしていたことなどが認められ、債務者において、債権者に対するこれらの対応に相当問題がある面は否定できない。
 しかしながら、上記1認定のとおり、債務者は、同月三一日及び四月七日の交渉の際には、一九期から二二期二月までの月々の「売り上げ」「粗利」「一般経費」「営業利益」等の一覧表を示して債務者の経営状況の概要を説明し、「1 会社の危機を解決するために取った方法」と題する書面を交付して整理解雇の理由を説明するなどしたこと、退職金については、共済制度に基づく退職金額の特定に時間を要したことには理由があるし、同金額に給与の二ヶ月分の加算を提示したこと、債権者側からも本件解雇に代わる代替案の提示はなく、当事者間でさらに協議を続行しても、真に共通の理解を得られる可能性があったかは疑問であることなどが一応認められるのであるから、これらの事情に照らすと、本件解雇が手続的にも必ずしも不当であったとは言い難い。〔中略〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 以上を総合すると、本件整理解雇については、客観的にみて合理的な理由を有することの一応の疎明があり、解雇権の濫用に当たるとは認められない。