全 情 報

ID番号 07810
事件名 療養補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 大田労基署長(日本航空)事件
争点
事案概要  航空会社Aで客室乗務員として勤務していた女性社員X(本件発症当時二〇歳代・すでに退職)が、三年七ヶ月間は国内線に、その後一年間は国際線に乗務した後、再度国内線に乗務して約二年経過した際に、頸肩腕症候群(転医後に「過労性腰痛症・過労性頸肩腕障害」と病名変更されている)と診断され、約五ヵ月半休業して治療を受けたが(休業後は、作業環境が改善されたほか、X自身も軽減業務に従事し、また十分な休養及び運動等をしたことにより症状は改善し、通常業務に戻っていた)、大田労基署長Yに対してなした労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の請求につき不支給処分がなされたため、右頸肩腕症候群及び腰痛は過重な勤務に起因する業務上の疾病に該当するとして、右不支給処分の取消しを請求したケースで、原審はXの請求を棄却していたが、本件頸肩腕症候群は、何らの異常も自覚されていなかった二〇歳の若年者において、客室乗務員としての勤務と対応するようにして異常が自覚され発症に至ったものであること等を考慮すれば、客室乗務員としての業務に従事したことにより蓄積された頸肩腕部、腰部の疲労が慢性化し発症に至ったものであって、頸肩腕症候群の原因は不明であり、個々人の肉体的・精神的な素因に社会的環境的要因が働いて発症することが多いとされていることを考慮するとしても、少なくとも客室乗務員としての業務が相対的に有力な原因となっており、業務に起因するものと認めるのが相当であるとして、Xの控訴が認容され、原審が取消された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項1号
労働者災害補償保険法12条の8第1項1号
労働基準法施行規則別表1の2第3号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 2001年9月25日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (行コ) 279 
裁判結果 認容(原判決取消)(確定)
出典 時報1771号147頁/タイムズ1079号310頁/労働判例817号35頁
審級関係 一審/07669/東京地/平12. 9.27/平成9年(行ウ)81号
評釈論文 ・労政時報3519号66~67頁2001年12月14日/岡村親宜、望月浩一郎、佐久間大輔・労働法律旬報1517・1518号84~91頁2001年12月25日/森陽子・季刊労働者の権利243号75~79頁2002年1月/西川知一郎・平成14年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1125〕294~295頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労災保険法上の保険給付は労働者の業務上の疾病等について給付されるのであるから(同法7条1号)、そのためには、当該業務に従事したことと当該疾病等が発症したこととの間に相当因果関係のあることが必要である。そして、上記相当因果関係があるといえるためには、当該業務が疾病等の発症に何らかの寄与をしているというだけでは足りず、当該業務が当該疾病等の発症に対して唯一ないし最大の原因である必要はないが、他の原因と比較しても相対的に有力な原因となっていると認められることが必要であり、かつ、それで足りるものと解される。
 そして、上記の判断については、当該労働者の業務の内容・性質、作業環境、業務に従事した期間等の労働状況、当該労働者の疾病発症前の健康状況、発症の経緯、発症した症状の推移と業務との対応関係、業務以外の当該疾病を発症させる原因の有無及びその程度、同種の業務に従事している他の労働者の類似症状の発症の有無、当該疾病とその発症についての医学的知見等の諸般の事情を総合して判断する必要がある。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 客室乗務員の業務のうち、旅客搭乗から旅客降機までの間に航空機内で行われる飲み物のサービス準備、おしぼりの配布、飲み物の配布、新聞・雑誌、枕・毛布などの配布、食事サービス、新聞・雑誌の回収、再配布、旅客の手荷物の収納棚への収納援助、アントレ付け等の作業や旅客搭乗前の点検作業(保安用機材、機内設備、旅客座席設備、毛布、枕、補助テーブルなどの機内備品、サービス用搭載品、客室全体の清掃状況等の点検)、旅客降機後の忘れ物の点検といった作業及びその繰り返しは、作業ごとにその態様は異なるものの、狭い通路やギャレー内で、腰部、背部、腕・肩・手の静的筋収縮をともなう不自然な姿勢による作業であって、限られた航行時間内に間断なく行われ、衆人環視の中の作業が多いことや食事・休息の場所・時間が十分に確保されないことなどの労働環境の特殊性と相まって、精神的緊張を伴い、肉体的にも疲労度の高いものであるということができるし、これらが複合的に作用する結果、腰部及び頚肩腕部に相当の負担のかかる状態で行う作業であるということができる。
 もっとも、これらの作業の繰り返しは、乗務時間中に限られた1動作のみを反覆継続して行うものではなく、一連の作業の一環として行われるもので、各作業とも作業時間は航行時間内と自ずと限定されている。〔中略〕
 以上検討したところを総合すると、控訴人に発症した頚肩腕症候群は、少なくても何らの異常も自覚されていなかった20歳の若年者において、客室乗務員としての勤務と対応するようにして、その前段階の症状といえる頚肩腕部の異常が自覚されるようになり、徐々に増悪していって、比較的繁忙期を経て発症に至ったものであり、客室乗務員としての勤務と症状発現に至る経過に明確な対応関係があると認められること、客室乗務員としての業務のほかに控訴人の日常生活において頚肩腕症候群を発症させるような要因は見当たらないこと、客室乗務員の業務内容はその一般的な性質として頚肩腕症候群を発症させ得るものであるとの研究報告もあり、これに沿うかのようなアンケート調査の結果等も少なくないこと、控訴人の症状を業務に起因するとする医師の意見もあり、この点に消極的な医師の見解も他の納得できる原因を指摘しているとは認められないことからすれば、控訴人に生じた頚肩腕症候群については、客室乗務員としての業務に従事したことにより蓄積された頚肩腕部、腰部の疲労が慢性化し、発症に至ったものであって、頚肩腕症候群の原因は不明であり、個々人の肉体的・精神的な素因に社会的環境的要因が働いて発症することが多いとされていることを考慮するとしても、少なくても上記客室乗務員としての業務が相対的に有力な原因となっているもの、すなわち控訴人の頚肩腕症候群は業務に起因するものと認めるのが相当である。