全 情 報

ID番号 07818
事件名 雇用関係確認等請求事件
いわゆる事件名 東日本旅客鉄道(懲戒解雇)事件
争点
事案概要  旅客鉄道事業等を営む株式会社Yで駅輸送係として勤務していたXが警察署から受領した遺失還付金六万五千円を着服し、さらに三ヶ月後もほぼ同額の遺失還付金を一ヶ月にわたり所定の手続を行わず放置したため、就業規則の定めにより懲戒解雇処分にされたところ、横領等の事実はなく、自白の強要等があったとして右処分の無効であると主張して、雇用契約上の地位を有することの確認及び賃金支払等を請求したケースで、Xの主張はいずれも信用するに足りず、本件処分の理由の事実を認定できるとしたうえで、就業規則の懲戒事由に該当し、かつ業務上現金取扱いの多いYにおいては現金の着服はその額の多寡にかかわらず解雇が原則であることから、本件処分は懲戒手段として相当な範囲を超えず有効であるとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 2001年10月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 4859 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1791号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 二回の遺失還付金が正規に処理されていないことが発覚しその取扱いについて担当者らに対する事情聴取が行われた際、原告は何ら強制や誘導を受けずに当初から一貫して二回の遺失還付金を受領したのは自分である旨認めていたこと、二回目の事情聴取時までに、四月受領分は四月の頭の遺失扱いの日(前示1(4)のとおり勤務指定表によれば六日か一二日と特定できる)に受け取り、A銀行の封筒に入っていたと供述したこと、このことは、Bらが取手署で事情聴取した結果と封筒の種類及び交付のおよその時期において合致していたことが認められる。また、原告は、七月受領分を受領した日はとても暑い日でごちゃごちゃと忙しい日で、ジュースを買った旨供述していたが、これは遺失還付金を受領した社員がジュースの自動販売機を探していたので案内し、もう一人はトイレに行ってはぐれていたとの取手署での事情聴取結果及びCが遺失扱いで取手署へ原告と行った暑い日にトイレに行っている間に原告がジュースを買ってくれた旨の供述とも合致していたことが認められる。
 そうすると、原告が自認する七月受領分のみならず、四月受領分の遺失還付金が平成一一年四月一二日に原告に交付されたことはこれを優に認定することができる。
 (2) そして、原告は、受領後の経過について再三説明を求められたにもかかわらず第二報告書作成時まで合理的な説明ができなかったこと、そのような状況下にあったにもかかわらず遺失扱いを行う同僚らに自分が遺失還付金を受け取ったかもしれないことを話したり、その後の遺失還付金の行方について尋ねたりすることなく過ごしていたこと、二回目の事情聴取時には四月受領分について弁償するとまで述べていたことが認められる。〔中略〕
 原告は、病気のために平成一二年六月には定年を待たずに退職する予定であり、特別加算金を含めて二九〇〇万円を上回る退職金を受領する予定であったところ、これを棒にふってまで六万余円の公金に手を出す愚を犯すはずがない旨主張する。確かに、原告本人及び弁論の全趣旨から、原告は病気のために平成一二年六月には定年を待たずに退職する予定であり、そうすれば特別加算金を含めて二九〇〇万円を上回る退職金を受領することが可能であったことが認められる。しかし、そのような状況下にあったとしても、着服は発覚しないことを前提として行うのが常であるから、前示2(1)(2)のとおりの各事実が認められる本件においては結論を左右しない。〔中略〕
 前示2(1)(2)のとおり、第二の1(3)記載の本件処分の理由の事実はこれを認めることができるところ、これは第一の2(4)の就業規則一三九条6号に該当する行為であり、かつ、前示1(17)のとおり業務上現金の取扱いが多い被告において現金の着服はその額の多寡にかかわらず解雇が原則であることから、本件処分は懲戒手段として相当な範囲を超えないというべきであり、一四〇条(1)の規定による懲戒解雇として有効である(争点1)。