全 情 報

ID番号 07819
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 奥野製薬工業事件
争点
事案概要  医薬、化学工業薬品等の製造・加工等を目的とする会社Yで部長職にあったが適格退職金を受領し(退職届は未提出)取締役就任したが、その後も就任以前と同様の部長職で業務を継続して行い、決裁を受ける事項、勤務時間、休日の取扱いも従来と変わらない形で勤務していたXら二名が、会長の指示を受けて社長解任を謀り部課長職の従業員に対する署名運動、役員会での社長解任の動議提出し、可決させたものの、社長の多数派工作により会長・副社長がその経営主導権争いに敗れたため、株主総会終了後、Y代理人弁護士から「ご苦労様でした。退職金は後でお支払をします」と挨拶され、取締役の地位を失うことなり、その後役員退職慰労金を受領したが、Xらは従業員兼取締役であり、取締役を退任したとしても、従業員としての地位は継続していたとして、従業員としての地位確認を請求したケースで、取締就任後もXらの職務に従事する関係においては上司たる会長、社長、副社長の指揮監督を受ける支配従属関係にある従業員としての地位にあったが、株主総会終了後の挨拶は解雇の意思表示とみることができるとしたうえで、本件解雇は解雇権の濫用にあたらず、退職時期が明確にされていない本件解雇の意思表示の場合、三〇日経過後に効力が発生したとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法9条
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
退職 / 任意退職
解雇(民事) / 解雇事由 / 企業秩序・風紀紊乱
裁判年月日 2001年10月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 11480 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1788号18頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 原告らが取締役就任後も従業員たる地位を有したか否かを検討するに、原告らが、取締役就任後も、就任前の外国部長、資材部長の職に引き続き勤務しており、その職務を行うについては、取締役就任前と同様に、職務内容を決裁権者である会長A、社長B、副社長Cに報告し、さらに必要に応じて、役員会に報告して、会長A、社長B、副社長Cの承認を受けることになっていたことは、当時者間に争いがなく、(書証略)、原告X1本人尋問の結果によれば、原告らが担当した部長という役職は、就業規則の適用を受ける地位であって、必ずしも取締役が担当する役職とはされていないし、原告らは、取締役就任後も、その担当業務に変更がなく、原告X2においては、販売計画案作成、人員の配置、対外折衝、契約書類等の作成等の貿易部における日常業務を、原告X1においては、資材に関する情報収集やその購入や販売に関する日常業務の外、平成一一年一一月からは、東京支店長を兼ね、それぞれ、出勤日には、始業時間までに出勤して出勤簿に捺印し、終業時間まで勤務し、休暇については、有給休暇の制度の適用を受けて、届出の上、これを取得していたこと、また、取締役就任によって、取締役会に出席して意見を述べることはできたが、その就任前に比して、支出権限が若干変わったほかは実質的に権限が増えてはおらず、勤務時間中の業務の殆どは、原告X2においては貿易部長としての業務、原告X1においては、資材部長及び東京支店長としての業務であったことを認めることができる。これらによれば、原告らは、従前従業員として行っていた業務をそのまま継続して行い、決裁を受ける事項も従前と変わらず、勤務時間、休日の扱いも従業員当時と変わらなかったもので、原告らが部長という職務に従事する関係においては、その上司たる会長、社長、副社長の指揮監督を受けていたもので、支配従属関係にあったということができる。〔中略〕
〔退職-任意退職〕
 被告においては、代表取締役会長A及びその長男である代表取締役副社長Cと、代表取締役社長Bとの間に確執のある状態が続いていたが、原告らは、A及びCのBを退任させたいとの意向を受けて、平成一一年一二月ころから、取締役D及び同Eとともに、被告の部課長級の従業員のBの社長退任を求める旨の署名活動を行い、五二人の署名を集めたこと、平成一二年五月二三日の取締役会において、原告X2において代表取締役社長Bについて代表取締役及び社長から解任することを提案し、B退席の上で、その解任に原告X1も賛成して、Bの代表取締役及び社長からの解任が可決されたこと、しかし、同年六月二〇日ころには、Bの多数派工作もあり、原告らが取締役から解任されるであろうとの噂も飛び交い、原告X1は、同月二五日ころには、東京支店長も辞めさせられると考え、部下に別れの挨拶をしたこと、原告らのいずれも同月三〇日の株主総会に出席したが、その総会において、A、C、D及びEの取締役退任が決まり、原告らも再任されなかったこと、そして、原告らは、総会の終了時、被告の代理人弁護士から、「ご苦労様でした。退職金は後でお支払いします」と挨拶されたこと、その後、原告らは、通勤費や旅行の積立金の清算、健康保険の切り替え手続等の書類を作成したこと、原告X2は、その後、私物の整理をし、翌七月一日、これを持ち帰ったこと、原告X1は、同月一日、私物を自宅に持ち帰ったこと、原告らは、その後、出勤していないことを認めることができる。
 これらによれば、原告らが、同年六月三〇日の株主総会において、原告らの加担したAらが被告経営上の主導権争いに敗れたことから、退職或いは左遷があり得るものと覚悟していた様子はあるが、部下に別れの挨拶をしたり、私物を整理したこと、若干の清算書類の作成をしたこと、出勤をしなかったという程度をもってしては、未だこれを自ら退職の意思表示をしたものということはできない。そして、他に、原告らが、退職の意思表示をしたと認めるに足りる証拠はない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-企業秩序・風紀紊乱〕
 被告においては、会長A及び副社長Cと社長Bとの間に確執があったところ、A及びCがBを経営から排除しようとし、原告らはこれに加担したが、結局、Bの巻き返しにあい、平成一二年六月三〇日の株主総会において、取締役の地位を失うことになったということができる。このような事情のもとに、原告らは、総会の終了時、被告の代理人弁護士から、「ご苦労様でした。退職金は後でお支払いします」と挨拶されたこと、その後、原告らは、通勤費や旅行の積立金の清算、健康保険の切り替え手続等の書類を作成したことも前記認定のとおりである。そして、原告ら各本人尋問の結果によれば、原告らは、同年七月五日ころ、被告から離職票の送付を受けたことを認めることができる。
 これらを総合すれば、前記被告代理人弁護士からの「ご苦労様でした。退職金は後でお支払いします」との挨拶は、その株主総会によって選出された取締役やBの意思を表現したものであって、これをもって解雇の意思表示がされたものと認めることができる。ただ、その表現形態からすると、退職時期を何時にしたかは明確でなく、被告の意識としては、取締役退任後に従業員たる地位が存続していると考えてはいなかったとはいえるものの、就業規則上は、懲戒解雇以外は解雇予告するものとされており、被告代表者の意思としても、即時解雇に固執していたものとは認められないから、その解雇の意思表示は、これが濫用によるものでないかぎり、三〇日経過後の同年七月三〇日をもって効力を有するものである。
 (2) そこで、原告らに対する解雇事由についてみるに、前記認定のとおり、原告らは、平成一一年一二月ころから、取締役D及び同Eとともに、被告の部課長級の従業員にBの社長退任を求める署名活動を行い、五二人の署名を集めたこと、平成一二年五月二三日の取締役会には、原告X2において代表取締役社長Bについて代表取締役及び社長から解任することを提案し、その解任に原告X1も賛成して、Bの代表取締役及び社長からの解任が可決されたことを認めることができるところ、これが被告の企業秩序に多大の混乱を与えたことは、容易に認めることができる。
 原告らは、これを会長Aの指示によるものと主張するが、その指示によるものとしても、代表取締役選任について何の権限もない部課長級の従業員の署名を集めたことは、これらの部課長級の従業員を経営上の主導権争いに巻き込んだもので、重大な秩序紊乱行為ということができる。被告の就業規則は、秩序を乱す行為そのものを解雇事由と規定するものではないが、第七二条の(6)ないし(8)に部分的に該当するものということができる。そして、その行為の重大さからすると、被告主張の他の解雇事由について検討するまでもなく、本件解雇を解雇権の濫用ということはできない。