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ID番号 07853
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 運送会社(損害賠償)事件
争点
事案概要  運送を業とする会社Xが、元従業員Yに対し、Yが在職中、X所有の四トントラックを運転して北陸道を走行中に同車のスリップによりトンネル側壁に衝突して車両を損傷させたことにつき、民法七〇九条に基づき損害賠償を請求したケースで、本件事故により生じた損害は、修理費用の約五五万円であるとしたうえで(休車損害の発生は否定)、Yには、車両の運転手として事故の発生を防止すべく、路面の状況や車両の整備状況、積載物の重量に応じた速度で走行する等の安全運転すべき注意義務があるところ、これを怠ったことからスリップしてしまったことが推認されるから本件事故の発生につきYの過失の寄与を否定することはできないとしつつ、諸般の事情に照らし損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてXはYに対し、損害の賠償を請求することができるにとどまるとして本件における諸般の事情を総合考慮した結果、Xが本件事故により被った損害のうちYに対して賠償を請求し得る範囲は、信義則上、損害額の五パーセントに当たる二万七七六六円とされたが、既にYからXに対して四万円が交付されており、それは損害の賠償をする趣旨としてとらえるほかなく、Yが負担すべき損害賠償額は既に補填済みであるとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 民法709条
民法715条3項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2000年11月21日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 548 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1770号102頁/労働判例825号81頁
審級関係 控訴審/07859/大阪高/平13. 4.11/平成12年(ネ)4339号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 被告には、民法709条に基づき、本件事故により原告に生じた直接損害を賠償すべき責任があることになる。
 しかしながら、本件のように、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し、右損害の賠償を請求することができるにとどまると解するべきである(最高裁判所昭和51年7月8日判決・民集30巻7号689頁参照)。〔中略〕
 原告は、7、8名の従業員を雇用して運送業を営む有限会社であるのに対し、被告は賃金生活を営む原告の従業員であったところ、運送業を営む以上交通事故が発生する危険は常に伴い、しかも、原告の従業員が交通事故を起こすことは日常茶飯事であって、所有車両が損傷するなどして損害を被ることが頻繁であったにもかかわらず、原告は、車両保険等に加入することにより車両損害を分散させる手だてをとっていなかったこと、原告の従業員が交通事故を起こすことが日常茶飯事であったということは、従業員自身の運転上の不注意のみならず、原告における労働条件や従業員に対する安全指導、車両整備等にも原因があったものと推認されること、原告に従業員が長く定着しないことからも、原告における労働条件に問題があったことが推認されること、本件事故の発生について被告に重大な過失があったことを認めるに足りる証拠はないこと、また、本件損害賠償請求は原告の従業員が業務執行中に起こした事故により原告が損害を被った事例のうちで異例に属することをそれぞれ認めることができる。〔中略〕
 以上で認定したところを総合考慮すると、原告が本件事故により被った損害のうち被告に対して賠償を請求し得る範囲は、信義則上、2で認定した損害額55万5335円の5パーセントに当たる金2万7766円の限度にとどまるものと認めるのが相当である。