全 情 報

ID番号 07864
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 つばさ証券事件
争点
事案概要  証券株式会社Xで証券外務員として勤務していたYは、昭和六二年から平成六年までC寺とD寺の担当をし、ワラント取引を紹介してその取引を一任されていたところ、この取引によりC寺は結果として約六〇〇〇万円、D寺は約二六〇〇万円の損失を負ったため、XがYに対し、Yは取引の開始又は継続に当たりYが両寺に対して行った勧誘又は対応に説明義務違反等があり、よってYがXに対して負う雇用契約上の注意義務に違反したと主張して、Xの職員就業規則の規定(職員は、故意又は重大な過失によって会社に損害を与えたときは、会社はこれを弁償させる)に基づき、あるいは予備的には、証券外務員が担当した取引によってXが顧客に対して賠償金を支払った場合に当該証券外務員はXに対して賠償金相当額の求償金を支払う旨の労使慣行等があるとして、XがC・D寺に対して支払った損害賠償金相当額(約一八〇〇万円)の損害賠償を請求したケースで、〔1〕Yは、Xに対し負っている雇用契約上の注意義務(本件取引の開始に先立ち、顧客に対しワラントの仕組み、内容、リスク等について具体的に説明を行うべき義務)に違反したと認めたうえで、Xが、Yに対して、ワラント取引を行うに当たって顧客に対して行うべき説明について指揮監督をした事実は認められないこと等の事実から、右注意義務違反に就業規則所定の「故意又は重大な過失」があったということはできないとしたが、〔2〕Yは、Xに対し負っている雇用契約上の注意義務(ワラントを相当な価格で売り付けて損失を最小限に抑える選択肢を含めた対策を顧客に助言すべき義務)には違反し、右違反には「故意又は重大な過失」があったとして、約二六〇万円のみ(Xが助言すべき時期であった当時にC・D寺が保有していたワラントの価格とこれらのワラントが実際に売却された価格の差額のうち二割分(C・DはYに保険取引を任せきりであったことから、損害につき八割の過失相殺))に請求が認容された事例。
参照法条 民法415条
民法1条2項
民法709条
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 2001年7月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 8905 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 タイムズ1101号180頁/労働判例834号64頁
審級関係 控訴審/07972/東京高/平14. 5.23/平成13年(ネ)4148号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 被告を含む職員は、原告と雇傭契約を締結して原告の指揮監督に従う関係にはあるものの、有価証券の売買等に専従する証券外務員として、自己の売上高の約4割にも相当する額の給与を支給され、その反面、在職中は身元保証人を立てることを常に要求されるのであるから、高額な給与を支給される代償として高度な責任を負っているということができる。特に被告は、前示第2の1(1)イのとおり、昭和62年当時、17年の勤続経験を有し、毎年3500万円以上の比例給を得、亀戸支店の職員中1番の成績を収め、班長をも務めていたのであるから、特に高度な責任を負っていたということができる。加えて、被告は、昭和62年に原告からワラントの販売を指示された後、様々な方法でワラントについて学習した結果、ギヤリング効果と権利行使期間の制限というワラント取引の主要なリスクを認識するに至ったものである。
 したがって、被告は、昭和62年から平成2年にかけて、原告において高度な責任を負っていたといえる以上、ワラント取引についても自らある程度学習した上で販売することが予定されていたということも可能であり、その学習を実行した結果、ワラント取引の主要なリスクを認識するに至ったものということができる。〔中略〕
 被告は、本件取引の開始に先立ち、A〔編注・C寺の経理担当者〕及びB〔編注・D寺の代表役員〕に対し、ワラントの仕組み、内容のみならず、権利行使期間を経過した場合にはワラントが無価値になるリスク及びギヤリング効果により大きな損失を被るリスクについて、具体的に説明すべき信義則上の義務を負い、原告に対しても、この説明を行うべき雇傭契約上の注意義務を負っていたものと認めるのが相当である。
 (イ)そうであるにもかかわらず、被告は、本件取引の開始に先立ち、Aに対しても、Bに対しても、上記の説明を怠り、平成5年2月16日の面接でBらから指摘されるまで説明を行わなかったものである。被告は、原告からワラントの仕組み、内容及びリスクについて顧客に説明することを禁じられていた事情もうかがわれない以上、原告に対する雇傭契約上の注意義務に違反したというべきである。
 (ウ)もっとも、前示3及び4(1)ウのとおり、原告が被告に対してワラント取引を行うに当たって顧客に対して行うべき説明について指揮監督をした事実は認められないことや、被告は、本件取引開始当時、ワラントの仕組みやリスクを知っていたけれども、それは自主的に学習した結果として知っていたにすぎないことに照らせば、ワラント取引が実際にどの程度のリスクをはらんでいるものであるかという点について、被告が独学だけで本当に理解していたといい得るのか極めて疑問が残るところである。その上、被告は、株式よりもリスクの低い銘柄に限定されていたとはいえ、本件取引開始に至るまで約11年間にわたり、投資信託等金融商品の銘柄の選択と売買をAとBから一任されていた。そして、職員のワラントに対する理解不足を補うべく原告が職員に対して教育を行うなど特に対策を講じた事実は、認められない。したがって、被告の上記の注意義務違反に職員就業規則49条の「故意または重大な過失」があったということはできない。