全 情 報

ID番号 07881
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 アジア航測事件
争点
事案概要  航空機による写真撮影等を目的とする会社Y2に勤務していた女性社員Xが、同僚である男性社員Y1に対して命令口調で消耗品の注文の依頼をしたことから口論となり、Y1から左顔面を一回殴打され、事件後の同日に、Y2社が間に入ってY1と仲直りし、上司から従業員に対し円満解決の報告もなされていたが、一週間の通院治療を要するとの診断を受けた後も頭痛等を感じるとともに当該暴行を考えると体が震えるなどの症状を起こすようになり通院を継続しつつ欠勤する一方で、前記仲直りしたことを後悔するようになりY2社にY1の謝罪を求めたところ、Y2社からは、Y1には治療費等を負担させて示談の方向で仲介する方針とXについては当面出勤扱いするとの通知を受けたが、その後、Xに対しY2社から本件事件を双方で協議することと及び欠勤の釈明を求める内容証明郵便が送付され、事件発生から約四か月目以降は賃金が支払われなくなり、更にその約五か月後には休職処分を受け、その後、事件発生から約二年半後をもって、正当な理由なく職場離脱し長期欠勤を続けたこと等を理由に就業規則に基づき解雇されたことから、〔1〕Y2社に対しては使用者責任に、Y1に対しては不法行為責任に基づく損害賠償を、〔2〕Y2社に対しては、Xの休業についてはY2社に責任があり本件解雇は不当であり、解雇権の濫用であるなどと主張して雇用契約上の地位確認及び賃金支払(完治するまで賃金支払約束をしていたと主張して賃金支払が停止された以降の分)を請求したケース。; 〔1〕については、本件仲直りや解決報告をもって、損害賠償請求を全くしないことを内容とする和解とすることはできず、Y1にはその暴行により生じた相当因果関係の範囲内の損害を賠償する責任があり、また本件暴行はY2社の業務の執行につき加えられたものであるとしてY2社もY1と連帯して損害賠償責任を負うとし、Xの請求が一部認容され(本訴提起までの損害額のうち約六割に当たる約一九四万円と慰謝料六〇万円)、〔2〕については、Xの欠勤は純粋に私的な病気による欠勤ではないなどからY2社は治癒をまって復職させるのが原則であって、治療の見込みや復職の可能性等を検討せず、直ちに解雇することは信義に反するからXに解雇事由はなく本件解雇は権利の濫用に当たり無効であるとしたうえで、解雇予定日直前に出社した際のXの状態からして原職に復帰できる状況にあるかは疑問であり、いまだ債務の本旨に従った労務の提供があるとはいえないとして地位確認請求についてのみ請求が認容(賃金支払請求は棄却また賃金支払約束があったことを前提とした主張に基づく請求も棄却)された事例。
参照法条 民法709条
民法715条
労働基準法89条3号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
解雇(民事) / 解雇事由 / 無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤
裁判年月日 2001年11月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 2173 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例821号45頁/労経速報1793号9頁
審級関係 控訴審/08003/大阪高/平14. 8.29/平成13年(ネ)3877号
評釈論文 ・労政時報3524号66~67頁2002年2月/中災防安全衛生関係裁判例研究会・働く人の安全と健康3巻11号35~40頁2002年11月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 これによれば、原告と被告Y1とは、一旦仲直りをしたことが認められのであるが、その当時、原告自身、傷害については、顔面が赤く腫れていることと痛みがあると言(ママ)う程度の認識であり、治療が長引くという予測はなく、被告らにおいては、原告に傷害が生じたという認識もなかったのであり、上記応接室における仲直りの席でも、傷害に対する損害賠償のことは話題になっていなかったものであるから、上記、暴行当日の仲直り及びその翌日の解決の報告をもって、損害賠償請求を全くしないことを内容とする和解であるとすることはできない。従って、被告Y1は、その暴行により原告に生じた相当因果関係の範囲内の損害については、その賠償責任を免れない。〔中略〕
 被告会社の使用者責任についてみるに、前述のとおり、被告Y1の原告に対する暴行は、原告が、その印刷機のカートリッジの注文を命じたことを端緒とするもので、被告会社の行う業務を誰が行うかという被告会社における備品の管理に密接に関わるもので、被告Y1が以前から原告に抱いていた不満も1つの原因となってはいるものの、これも原告の被告Y1に対する業務指示のあり方という業務に起因したものであるから、これらによれば、被告Y1の原告に対する暴行は被告会社の業務の執行につき加えられたものということができる。そうであれば、被告会社は、被告Y1と連帯して、原告に対する損害賠償の責任を負うといわなければならない。〔中略〕
〔解雇-解雇事由-無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤〕
 被告会社は、原告が、平成9年3月14日以降、正当理由なく職場離脱をし、以後長期欠勤を続けた旨主張するので、検討する。〔中略〕
 原告の欠勤は、被告会社の従業員が行った暴行に原因するもので、純粋に私的な病気による欠勤ではなく、その治療費については、被告会社にも支払の責任があったことは、前述のとおりであり、治癒をまって、復職させるのが原則であって、治癒の見込みや復職の可能性等を検討せず、直ちに解雇することは、信義に反するというべきである。
 以上によれば、原告に解雇事由はないというべきであって、本件解雇は権利の濫用として無効である。