全 情 報

ID番号 07905
事件名 従業員たる地位確認等請求上告事件
いわゆる事件名 崇徳学園事件
争点
事案概要  学校法人Xに長期計画推進室長として雇用され法人事務局次長を兼務していたYが、〔1〕台風災害の復旧工事に関し、Xの法人事務組織規程、決済規程、経理規程等に違反し、適切な事務処理、会計処理を行わず、また工事の請負業者であったD社に工事代金の不当な水増し請求をさせるなどしてその任に背き、Xに損害を与えた、〔2〕リース契約に関し、Xとクレジット会社との間に必要もないのに殊更D社を介在させ、虚偽の内容のリース契約をさせるなどして、D社に不当な利得を得させた、〔3〕日常の勤務態度は劣悪であり、Xの職員としての適格性を欠く行為が多々あること、を理由に懲戒免職処分とされたことから、Xに対し、これを不当として従業員たる地位の確認及び賃金等の支払を請求したケースの上告審(X上告)で、原審は本件懲戒処分を無効としていたが、最高裁は、〔1〕の点は、Xにおいて簡略な支払方法を主導しこれを実行させたのはYであり、適正な会計処理に直結すべき正規の決済手続を行わなかった責任はYにあるといわざるを得ず、〔2〕の点も、法人事務局次長という職員としては法人事務局の最高責任者であったのに会計処理上違法な行為を行い、Xの信用を失墜させ、Xに損害を与えたのであって、その責任を軽視することはできないなどとして、Xが本件懲戒免職に及んだことは、客観的にみて合理的理由に基づくものというべきであり、社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものというべきことはできないと判示して、原審の判断が破棄され、一審判決が正当とされた事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
裁判年月日 2002年1月22日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (受) 768 
裁判結果 原判決破棄・自判、被上告人控訴棄却(確定)
出典 労働判例823号12頁/労経速報1802号13頁
審級関係 控訴審/07834/広島高/平11. 4.13/平成7年(ネ)194号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 本件懲戒免職を無効であるとした原審の判断は、是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 前記事実関係によれば、上告人は、補助金の交付を受ける学校法人であるが、本件台風被害に関しA海上から2992万6349円に上る保険金の支払を受けながら、A海上に指示して工事業者に対し保険金を直接振り込ませ、その処理について正規の決裁の手続を履践せず、保険金受領の事実及び本件復旧工事代金支払の事実を何ら会計帳簿に記載しなかったものである。上告人において上記のような簡略な支払方法を主導しこれを実行させたのは被上告人であり、それがB理事長の意向に沿ったものとしても、適正な会計処理に直結すべき正規の決裁手続を行わなかった責任は、被上告人にあるといわざるを得ない。被上告人が、C経理課長の上司である事務局次長という要職にあり、本件復旧工事の処理の担当とされていたことを考えれば、適正な会計帳簿を作成しなかったことについてC経理課長に責任があるなどの事情があったとしても、被上告人の責任が軽減されるものではない。〔中略〕
 被上告人は、上告人がA海上から本件復旧工事代金を賄うに足りる保険金の支払を受けることができるような措置を執り、これが奏功すると、A海上に保険金の中からDワークに対して工事代金を直接振り込ませることにより、A海上から支払を受けた保険金と本件復旧工事代金との差額をDワークに取得させたものである。しかしながら、本件損害保険契約に基づき支払われた保険金は、正当な金額である限り、保険契約者である上告人に帰属すべきものであるし、過大な部分があれば、上告人がこれを返還すべき義務を負うべきものであるから、上告人が、被上告人の上記各行為により、損害を受けなかったものとはいえない。
 そして、被上告人の上記各行為は、生徒の父母、学校関係者、監督行政庁、さらには社会一般から、上告人が不正行為を行っているという疑惑を招くことを避けられないものであって、著しく不相当な行為である。その結果、前記のとおり、上告人の学校関係者から、本件復旧工事に関連する保険金の支払方法等につき、被上告人が不正な行為をしているのではないかとの指摘等がされ、広島県知事が、上告人に対し、本件台風被害に係る保険金収入及び本件復旧工事代金の支払を学校会計に計上していないこと等が法令及び寄附行為に違反するとの指摘を行い、改善実施計画等を作成して提出するように求め、上告人に対する補助金の交付を保留することとしたのである。これらによれば、被上告人は、上告人が著しく不相当な行為を行ったとして社会一般から非難され、信用を失墜したことについて、責任を免れない。〔中略〕
 被上告人は、法人事務局次長であり、職員としては法人事務局の最高責任者であったのに、会計処理上違法な行為を行い、上告人の信用を失墜させ、上告人に損害を与えたのであって、その責任を軽視することはできない。原審が挙げるような事情によって、被上告人の責任が軽減されるということはできない。また、被上告人は、特定の業者に契約に基づかない利得を与えて、これと深い結び付きを持ったと見られてもやむを得ない。そうすると、上告人が被上告人に対し本件懲戒免職に及んだことは、客観的にみて合理的理由に基づくものというべきであり、本件懲戒免職は、社会通念上相当として是認することができ、懲戒権を濫用したものということはできない。