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ID番号 07906
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 奈良医大アカデミックハラスメント(アカハラ)訴訟控訴審判決
争点
事案概要  Y1県立医科大学の助手に採用され、公衆衛生学教室に勤務している女性Xが、同教室の主任教授の退職に伴い、公募・選考の結果、Y2が後任教授に決定され、Xの直属の上司になったところ、Y2の選考をめぐり、Xを中心とする助手・講師有志が選考委員長に対し、再公募等を求める要望書を提出するなどし、Y2就任後もY2を一人前の教授として扱わないような態度をとっていたこともあって、XとY2の間に確執が生じていたところ、Y2から教室主任たる地位、権限を濫用、越権した数々の嫌がらせ(アカデミック・ハラスメント)を受け、その人格的利益を侵害されたとして、〔1〕Y2に対し、不法行為に基づき、〔2〕奈良県に対し、国家賠償法一条に基づき(更に、Xの雇用者として働きやすい職場環境を提供すべき雇用契約上の義務があるにもかかわらず、それを尽くさなかったとして、債務不履行に基づき)それぞれ精神損害及び弁護士費用の賠償を請求したケースの控訴審で、原審は、Xの主張のうちY2の一部の行為につき違法性を認めたうえで、〔2〕についてのみ損害賠償請求を一部認容していたが、控訴審では原審で違法性が認められた行為のうちの一部(兼業承認申請への押印拒否)にのみ嫌がらせの要素があると推認できるとしたうえで、〔1〕については、Y2が公権力の行使として行った行為に基づく責任は、公共団体である奈良県が賠償責任を負担し、Y2個人において責任を負担するものではないとしXの控訴が棄却、〔2〕については、奈良県は、Y2が職務上行った違法な行為につき国家賠償法に基づく損害賠償責任を負う(債務不履行責任に基づく請求については棄却)とし、認容額については原審のそれの五分の一に減額され原審が一部変更された事例。
参照法条 国家賠償法1条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2002年1月29日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ネ) 3856 
平成12年 (ネ) 3857 
裁判結果 変更、棄却(上告)
出典 タイムズ1098号234頁/労働判例839号9頁
審級関係 上告審/08019/最高一小/平14.10.10/平成14年(オ)1026号
評釈論文 小畑史子・労働基準55巻6号28~32頁2003年6月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 被控訴人Yが控訴人のA短期大学における兼業承認申請への押印を拒否したことは、同被控訴人の嫌がらせと見るのが相当であり、このことによって、控訴人には同短期大学における平成10年4月1日の第1回講義を休講にせざるをえなかったという実質的な影響もあったと認められる。兼業承認は公権力を行使する被控訴人Yの職務上の行為というべきであり、従って同被控訴人の当該行為は国家賠償法上の違法行為である。〔中略〕
 被控訴人Yが第3研究室の廃液容器を控訴人の部屋の前室に移動させた点に嫌がらせ的な要素があったと見る余地がないではないこと、控訴人のA短期大学の兼業承認申請に押印しなかったことが、同被控訴人の国家賠償法上の違法行為に該当するのは先に認定したとおりである。しかしこれら及びその他の個々的な行為が存在し、その背景に控訴人と被控訴人Yの間の意見の不一致及びこれに伴う軋轢があったからといって、直ちに被控訴人奈良県においてその職場環境の整備のため、教室に介入する緊急の必要があるとか、控訴人の学生に対する教育・指導、学問・研究に重大な支障が発生したというような事実は認められない。
 以上のとおり、本件においては、被控訴人奈良県において職場環境に配慮しまたは違法行為を是正すべき義務があったとするための前提条件を欠くというほかはないから、控訴人の上記主張は、その余の点について判断をするまでもなく失当である。〔中略〕
 被控訴人奈良県が、被控訴人YによるA短期大学の兼業承認申請押印拒否について、国家賠償法に基づく損害賠償責任を負うことは前述のとおりである。
 もっとも控訴人と被控訴人Yの関係は、それが違法と判断されるかどうかは別論としても、平成5年4月の被控訴人Yの公衆衛生学教室の教授就任を契機として、教室運営の方法を巡ってことあるごとに対立を繰り返してきたものであるのは、前認定のところから明らかである。
 この対立の原因は、控訴人においても、嫌がらせ行為を被控訴人Yに仕掛けたり、また教室会議で決まり、公務員として当然に要求される欠勤や休暇についての手続を、研究方法に関する独自の考え方に固執して、これを遵守しなかったところにも存在するというべきである。
 (2) これら被控訴人Yの兼業申請押印拒否の経過及び影響、これに至るまでの控訴人の対応等本件における諸般の事情を考慮し、控訴人の精神的苦痛に対する賠償としては10万円をもって相当と認める。