全 情 報

ID番号 07923
事件名 取立債権請求事件
いわゆる事件名 佐川急便事件
争点
事案概要  被告会社Yの従業員Aが平成一〇年四月に自己都合退職したところ、Aに対して貸金債権を有するXが、この貸金債権について有している公正証書を債務名義としてXを債権者、Aを債務者、Yを第三債務者として、AのYに対する賃金債権、一時金債権、退職金債権のそれぞれ四分の一の金額について、債権差押命令の申立てを行い、それによって出された債権差押命令が平成一〇年六月にY及びAに送達されたが(Yへの送達前には退職一時金・選択一時金等はいまだAに支払われておらず)、これに対する陳述催告で、YがAに対する賃金、退職金等の債務は存在しない旨を答えたことから、XがYに対し、Aの退職金についての債権差押命令に基づく取立権の行使を理由として(民事執行法一五七条)、差押えに係る部分の退職金約一四一万円(退職金規程に基づくAの退職金額約五六五万円の四分の一)の支払を請求したケース。; Yの退職金規程に基づく退職金は退職金規程によって計算された金額から適格年金・厚生年金基金の各一時金の支給額を控除して支払われることになっているが(本件控除規定)、この意義を本件退職年金規約及び本件基金規約における仕組み(Yは退職金規程のほかに、信託銀行との間に年金信託契約を締結して年金基金を設定しており(適格年金)、この退職年金規約及び年金信託契約によって、Yの従業員で一定の要件を備えた者には退職年金あるいは一時金(選択一時金)が信託銀行から支払われることになっているのに加え、Yは関連会社とともに厚生年金基金も設立しており、基金加入者には一定の要件のもとに退職年金又は選択により選択一時金が基金から支払われることになっている)を踏まえながら考えると、同規定は、従業員が本件退職年金規約及び本件基金規約に基づいて支払を受ける退職一時金及び選択一時金の金額に相当する部分については、Yは本件退職金規程に基づく退職金の支払義務を負わないことを定めたものと解するのが相当であるとし、したがって、Aが信託銀行から受けた退職一時金及び基金から受けた選択一時金(合計五三六万円)の金額部分についてYは本件退職金規程の控除規定に基づき、同規程に基づく退職金の支払義務を負わないとして、本件債権差押命令に基づきXが取立権に基づき給付を受ける権利は、退職金債権約二九万円(退職金規程に基づき計算した退職金の額約五六五万円から上記約五三六万円を差し引いた額)のうち、差押えが禁止される退職金の四分の三に相当する部分を超える金額である約七万の部分につき発生するものというべきであるとして、その部分についてのみXの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支払義務者
裁判年月日 2002年2月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 966 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例826号24頁/労経速報1820号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由  (4)被告の退職金規程(以下「本件退職金規程」という。)には、次のとおりの定めがされている。〔中略〕
 第6条 社員が次の各号に該当して退職又は解雇した時は、第3条に定める式によって算出した退職金基準額を支給する。
 (1)ないし(3)(略)
 (4)本人が退職を希望し会社が承認したとき
 (5)ないし(8)(略)
 2 別に定めるS社グループ厚生年金基金規約(以下「基本規約」という。)及び退職年金規約に基づき加算年金又は一時金の給付の支払を受ける者については、その支給額(加算年金の場合は選択一時金とする。)をこの規程に基づき算定した退職金の額から控除して支給するものとする。ただし、基金規約による支給額がこの規程による支給額を超える場合はこの規程による給付は行わない。
〔賃金-退職金-退職金の法的性質〕
 退職金請求権は、退職に伴って当然に発生するものではなく、使用者が就業規則、労働協約等により、その支給の条件を明確にして支払を約した場合に、その支給の条件に即した法的な権利として、初めて発生するものと解される。退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項について就業規則を作成すべきことを定める労働基準法89条3号の2の規定もまた、退職金請求権が上記のような性質・内容のものであることを前提として設けられているものと考えられる。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金の支払義務者〕
 本件退職年金規約及び本件基金規約における以上のような仕組みを踏まえながら、本件退職金規程6条2項の規定の意義を考えると、同規定は、従業員が本件退職年金規約及び本件基金規約に基づいて支払を受ける退職一時金又は選択一時金の金額に相当する部分については、被告は本件退職金規程に基づく退職金の支払義務を負わないことを定めたものと解するのが相当である。
 したがって、本件において、AがB信託銀行から受けた退職一時金407万2400円、基金から受けた選択一時金128万7600円、以上合計536万円の金額部分について、被告は、本件退職金規程6条2項に基づき、同規程に基づく退職金の支払義務を負わないものというべきである。