全 情 報

ID番号 07924
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 厚木プラスチック関東工場事件
争点
事案概要  合成樹脂製品の製造、加工及び販売等を業とする株式会社Yに期間の定めなく半日パートタイマーとして雇用され関東工場に限定して工場作業員として稼働していたXが、Yでは半日パート従業員に対し、一日勤務の準社員への転換の勧奨が行われていたが、Xはこれに応じず、その後、Xを含む四名のパート社員に対し機械化に伴う剰員を理由とする退職勧奨がなされたが、Xはこれにも応じなかったところ、さらにYから退職慰労金の支払を提示され再就職先を探すことを手伝う旨の申入れとともに再度退職勧奨されたが、これにも応じなかったために解雇されたことから、〔1〕主位的に、本件解雇は無効であるとして、労働契約上の地位確認及び賃金、慰謝料、休業手当の支払を、〔2〕予備的に、解雇予告手当、解雇予告手当付加金、休業手当の支払、その他の請求として有給休暇非付与による損害賠償の支払等を請求したケース。; 本件解雇は「雇止め」ではなく、会社都合による「解雇」として行われたのであり、XYの雇用関係は期間の定めのない労働契約として存在していたものと認めることができ、本件解雇には解雇に関する法理の適用があると解されるが、本件解雇には整理解雇の法理の適用ないし準用があるものの、正社員や準正社員との取扱い等の差異等から、半日パートの職種自体の廃止の必要性など整理解雇の個々の要件を検討するにあたっては、正社員や準正社員等を整理解雇する場合とはおのずから差異が認められるべきとしたうえで、Yが半日パート従業員を職種として廃止する方針をとったことには合理性があり、半日パート従業員についての人員削減の必要性があったということができ、また解雇回避努力あるいは人選の合理性に問題はなく、解雇手続の相当性も認められるとして本件解雇は有効であるとし、その効力発生については、解雇予告手当が支払われていない本件の場合、解雇通知日から三〇日を経過した日の経過により本件解雇はその効力が発生するとし、Xの(主位的)請求については、解雇通知日から三〇日を経過するまでの間における未払賃金についてのみ認容された(なお、予備的請求のうち本件解雇以前の休業手当の請求の一部及びその他の請求として有給休暇に関する請求の一部が認容された)事例。
参照法条 労働基準法89条3号
労働基準法20条1項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
解雇(民事) / 労基法20条違反の解雇の効力
裁判年月日 2002年3月1日
裁判所名 前橋地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 265 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例838号59頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト1262号169~172頁2004年2月15日
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 (ア) 原告を含む半日パート従業員は、被告において臨時従業員の一種であると位置づけられており、正社員ではない準社員、アルバイト及びフルタイムパートと比ベても、その処遇や採用の経緯に照らし、臨時職としての性質の強い職種であったといえる。しかし,被告は,原告ら半日パート従業員を雇用するに際して雇用期間の定めをしていないこと(<証拠略>によれば、むしろ、特段の事情がない限り継続する雇用契約であったことがうかがわれる。)、半日パート従業員に対する「雇止め」による雇用契約終了も平成5年10月8日を最後に行われておらず、現に本件解雇も「雇止め」ではなく「会社都合」による「解雇」として行われたのであるから、原告被告間の雇用関係は期間の定めのない労働契約として存在していたものと認めることができ、本件解雇には解雇に関する法理の適用があると解される。〔中略〕
 準社員及びパートタイマーに適用される就業規則が元々は半日パート従業員に適用される就業規則として存在しており、また、半日パート従業員を就業規則の対象から外したのもその経緯に照らせばできるだけ準社員に組み込むためであったと評価できるから,本件解雇も、民法に基づく期間の定めのない雇用契約の解雇としていつでも被告の任意において解雇が可能であると解するべきではなく、準社員及びパートタイマーに適用される就業規則の規定の精神に基づきその適法性を判断すべきであると解される。
 (ウ) してみると、被告の会社都合により原告を解雇した本件解雇については整理解雇の法理の適用ないし準用があるものの、既に認定した正社員や準社員等との取扱いの差異等から、半日パートの職種自体の廃止の必要性など整理解雇の個々の要件を検討するにあたっては、正社員や準社員等を整理解雇する場合とは自ずから差異が認められるべきものといえる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 被告においては、半日パートにつき、平成4年秋ころ以降、その職種としての廃止が検討されてきたものであるが、半日パート従業員の配置の困難性、2人1組で行う作業について準社員が半日パート従業員と組を作ることを嫌がる傾向にあること及び機械化の状況などに照らすと、被告が半日パート従業員を職種として廃止する方針を取ったことには合理性が認められ、いいかえれば、半日パート従業員について人員削減の必要性があったということができる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 原告は、関東工場に限定して被告に雇用され、前橋市に居住していたことから、関東工場以外の部署である東京本社、旧東京工場、九州事業部のいずれかに配置転換することは、原告の都合や交通費、住宅費といったコストの面に照らし、事実上不可能というべきである。また、関東工場の他種類の従業員、すなわちアルバイトないし準社員への転換についても、上記認定のとおり、アルバイトについては、重量のある物を運搬する業務が含まれているか、専ら夜勤であるため、女性である原告をアルバイトに配置転換することは不可能であり、準社員については、機械化の影響で準社員自体にも剰員があることや、原告の仕事振りからすると、やはり準社員への配置転換はできないものといわざるを得ない。
 正社員についても、採用の方法や従事する業務の内容等の点で、準社員、アルバイト、半日パート従業員との違いが大き過ぎて、原告を正社員としなかったことが不適切であるとはいえない。
 以上によれば、原告が任意の退職に応じなかった以上、被告が原告を解雇したことは真にやむを得なかったというべきである。
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 被告は、本件解雇に当たり、半日パートという職種自体を廃止するため、原告を含む半日パート従業員3名全員に退職勧奨を行い、原告を除く2名の従業員は退職に同意して、平成9年12月15日任意退職しており、前記のとおり、半日パート(職種)の廃止はやむを得ないものである以上、解雇の人選に誤りを生じる余地はない。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 被告は、原告より、平成9年11月19日、退職勧奨に応じない旨の返答を受けて同年12月8日までの間、原告に対し、規定外の退職慰労金として1か月分給与8万1970円と退職一時金3万円の合計11万1970円を支払う旨の条件を提示し、原告がこれに応じなかったことから、上記退職慰労金の支払に加えて原告のための再就職先を紹介する旨の提案をするなど、できる限り誠意をもって原告に対したものといえる。〔中略〕
〔解雇-労基法20条違反の解雇の効力〕
 被告は、原告に対し、平成9年12月8日、同月15日をもって解雇する旨の解雇通知をしたが、解雇予告手当金の支払がなされていないので、同月15日限りの解雇としてはその効力を有しない。しかし、使用者が即時解雇に固執する趣旨でないときは解雇通知から30日の経過又は30日分の給与相当額が支払われたときに解雇としての効力が発生すると解されるところ、弁論の全趣旨によれば、本件において被告は平成9年12月15日限りでの解雇に固執する趣旨ではないと認められ、したがって、本件解雇自体が解雇予告手当不払のために当然に無効となるということはできず、同月8日の解雇通知から30日が経過した平成10年1月7日の経過により本件解雇はその効力が発生するものと解される。