全 情 報

ID番号 07925
事件名 療養補償給付及び休業補償給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 堺労働基準監督署長事件
争点
事案概要  トラック代金を分割で支払いつつ、燃料費、高速代金等を負担しつつ、A社で鉄骨、プレハブ等の運送業務に従事していたXが、その業務に従事中にトラックの荷台から転落し、頭部外傷、後頭部挫創、腰部打撲の傷害を負って治療を受けたため、羽曳野労働基準監督署長Yに対し、本件傷害は業務上の事由によるものであるとして、労働者災害補償保険法に基づき療養補償給付及び休業補償を請求したところ、Yからは不支給処分とされたことから、Yに対し右処分の取消しを求め、Xが労働者災害補償保険法上の労働者に該当するかが争われた事例で、Xは経費等を負担し、報酬についても税金、社会保険料の源泉徴収を受けず、報酬の受領に際しては領収書を作成し、交付していたことなどからすれば、いわゆる一人親方として自己の危険と計算で就業していたといえ、Xが外見上A社の他の従業員と同様の形態で就業していたとしても、このことのみで、Xが同社の指揮監督下にあったとまではいえず、XはA社のなかで唯一、報酬の額、その算出方法、支払方法、あるいはロッカーの貸与等において他の従業員とは全く異なった取扱いを受けており、また就業規則が適用されていたとは認められない状況であったことのほか、もともと運送業の事業者であり、傭車運転手に関する知識も十分にあったXがA社の代表取締役から専属の持ち込みの運転手として稼働しないかとの提案を受け、自ら望んでこれを了承し、傭車運転手としてA社で就労していたこと等からすれば、Xに労働者災害補償保険法あるいは労働基準法上の「労働者」性を認めることはできないとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法9条
労働者災害補償保険法1条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手
労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 労働者
裁判年月日 2002年3月1日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (行ウ) 10 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1811号22頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-労働者〕
 原告のA社での就労形態である、「持ち込み」あるいは「一台持ち」の運転手とは、傭車運転手といわれるものであるが、これは自分でトラックを所有し、それを特定の会社に持ち込んで、経費等を負担しながら、専属的に運送等の業務を行う運転手のことである。原告についても、4441番のトラックの代金を分割で支払いつつ、燃料費、高速代金、車検費用等を負担しつつ、A社で運送業務に従事していたものであり、また売上げに基づき報酬の額が决められる一方で税金、社会保険料の源泉徴収を受けず、報酬の支払いを受けるために、請求書の作成を求められるとともに、報酬の受領に際しては領収証を作成し、交付していたことからすれば、いわゆる一人親方として、自己の危険と計算で就業していたといえる。
 確かに、原告は、午前七時に出勤し、タイムカードを打刻し、制服を着用のうえ、A社の指示で、指示された場所へ荷物を運送し、作業報告書、運転日報等を作成し、また配送の指示がなければ午後四時に帰ってもよいと言われていたことや、原告が、A社で就業をしてから、本件事故までの間に、A社以外の仕事に従事していたこともなかったことからすれば、原告は、他の従業員と変わらない状態で、A社で就労していたともいえる。
 しかしながら、前記認定のとおり、原告には、運送業務に際して、運送経路の指定や高速道路の使用制限はなかったこと、タイムカードも原告の勤務時間の管理等のために用いられたことはなかったこと(書証略)、原告は仕事を休みたいときは、三日前までに連絡すればよかったことをも考慮すれば、原告が、外見上A社の他の従業員と同様の形態で就業していたとしても、このことのみで、原告が同社の指揮監督下にあったとまではいえない。
 この点、原告は、Bの指示により荷物も運ばずに岡山から戻ったことがあることから、B(A社)の指揮監督下にあったと主張するが、このBの指示の経緯は、前記認定のとおりであって、B個人のCとのトラブルのための要請であり、A社の代表者としての業務命令とは認められないから、これをもって、原告がBの指揮命令を受けていたとまでは認めることはできない。
 そして、原告は、A社で、報酬の額、その算出方法、支払い方法、あるいはロッカーの貸与等において、他の従業員とは全く異なった取り扱いを受けているが、このような運転手は、A社では、原告のみであったことからすれば、原告に、A社の就業規則が適用されていたとは認められない状況であったこと、もともと運送業の事業者であり、傭車運転手とは、どのようなものかという知識も十分にあった原告が(原告本人)、Bから、専属の「持ち込み」の運転手として稼働しないかとの提案を受け、自ら望んでこれを了承し、傭車運転手としてA社で就労していたこと、原告の療養補償の請求にかかる事情は前記認定のとおりであることをも考慮すれば、原告について、労働者災害補償保険法上あるいは労働基準法上の「労働者」性を認めることはできない。