全 情 報

ID番号 07954
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日経ビーピー事件
争点
事案概要  出版会社Y2社に採用され、数次の異動を経ながらも編集業務に従事してきたXが、記者として就労した際には、取材時に一貫してメモを取らないという取材方針を貫いたため、記事のもと情報が不正確になり取材先との間でトラブルになったこと、文章の表現力が不十分でそのままでは記事として使えないこと等から各職場における上司の記者としての評価は非常に悪く、又パソコン通信システムの担当の際には、メッセージの書き込みにより会社の信用を傷つけたとしてけん責処分を受けるなど勤務実績はすこぶる悪いとの評価を受け、又周囲との関係での態度や、体力不足から又上司と口論した直後に突然に年休をとったり、記事の締切りを守らず周囲の記者が穴埋めしたりするなど各配属先の上司や同僚からの勤務態度に関する評価も悪かったため、人事部でXを他の編集部に異動することが検討されたが、引き受けようとする編集長がなく、又他の部での受け入れを拒まれたことから、福利厚生部への異動命令がなされたところ、そこでも業務過誤を繰り返し、その経過報告書の提出命令も二度にわたり拒否したためけん責処分を受け、その後上司が警告書で出席を命じたにもかかわらず福利厚生部会を約二か月間で七回にわたり欠席したことから再度けん責処分、その後も同部会の度々の欠席、無断の早退、業務命令の不服従があったことを理由に減給処分や出勤停止処分され、その後も同様の行為を繰り返したうえ事情聴取も拒否して約二か月欠勤する旨の電子メールを上司に送信した以降、出社せず、上司からの再三の欠勤届の提出、メールや郵便、FAXによる出社指示などによる職場復帰命令にも応じなかったため、懲戒解雇されたところ、Y2社及び福利厚生部の上司Y1に対し、〔1〕本件異動命令の無効を主張して、Y2社の編集記者としての地位にあることの確認、〔2〕Xに対する各懲戒処分の無効確認のほか慰謝料の支払、〔3〕本件懲戒解雇の無効確認などを請求したケースで、本件異動命令、各懲戒処分はいずれも適法であり、本件懲戒解雇も相当な処分であり、平等原則の見地からも適切であるとして、Xのいずれの請求も棄却された(その他Xは多岐にわたる請求を行っていたがすべて却下された)事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 2002年4月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成11年 (ワ) 4526 
裁判結果 一部却下、一部棄却(控訴)
出典 労働判例830号52頁/労経速報1804号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 原告と被告会社との労働契約は、職種指定契約であるとの主張については、職種指定契約の意味が、被告会社に職種を超えた異動命令権がないという意味であるとすれば、これを認定させるだけの証拠はなく、原告本人尋問においても、被告会社の職種を超えた異動命令権を否定まではしていないと供述している。むしろ、前記認定によれば、原告は、被告会社と労働契約を締結した際、他の内定者と同様の労働条件の提示を受け、被告会社が業務上の都合による転勤、職場の変更を命令する権限を有するという内容を含む就業規則を守るとの誓約保証書を作成していることからすれば、原告は、被告会社に配転命令権があるという労働条件による労働契約を締結したと考えるのが相当である。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 原告は、被告会社が配転命令権があることを前提としても、原告に対する本件異動命令は、原告を必要とする業務上の理由がないのに、不当な動機に基づいて行われたものであること、編集記者の身分に伴って支給される手当が受給できなくなることから、被告会社の異動命令権の濫用であるから無効であると主張する。しかし、前記認定によれば、本件異動命令は、原告が10年以上、被告会社に記者として稼働した結果、記者としての働きぶりについての上司や同僚から評価が芳しくないことから、異動対象として原告を引き受けようとする編集長がいなかったという客観的状況を踏まえて、被告会社が、人材の活用を考えた結果行ったものであり、労働力の適正配置、業務の能率運営、業務運営上の円滑化という観点からは、業務上の必要性があって本件異動命令が出されたものと考えるのが相当である。原告の主張する本件異動命令の不当な動機についての具体的な根拠はない。また、原告は、本件異動命令により、編集記者として受給していた手当が受けられなくなると主張する。もとより、勤務時間帯が不規則な編集記者と福利厚生部のような事務職とでは、時間外賃金の積算方法が異なり得るにしても、それをもって通常甘受すべき程度を超えたものと評価することはできない。以上から、異動命令権の濫用であるとする原告の主張もまた、採用することはできない。
 したがって、本件異動命令は適法であって、有効であるという結論となる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 前記認定のとおり、本件第2けん責処分の後の福利厚生部会を欠席し、過誤防止の一つの手段として被告Y1が出した伝票をA次長に提出するとの業務指示を拒否し、また、了解を取って早退することの指示違反をしたことが、就業規則51条1号に該当するとして、本件減給処分をしたことは、妥当な処分であると評価することができる。〔中略〕
 前記認定のとおり、本件減給処分後の原告による福利厚生部会の度重なる欠席、伝票のA次長への不提出という業務指示違反、原告の業務過誤に関する事情聴取の拒否を就業規則51条1号に該当するとして出勤停止処分を行うことは、相当なものであると評価することができる。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 前記認定によれば、原告は、平成12年1月11日から同年3月2日までの長期間、上司による承認を受けることなく連続して欠勤し、被告Y1、被告会社の人事部長及び人事・総務担当役員による職務復帰命令に違反したという点は、原告の被告の従業員としての基本的な義務に反する重大な命令違反であるといわなければならない。それだけでなく、前記認定のとおり、本件出勤停止処分の後の福利厚生部会の出席拒否、伝票をA次長に提出するとの指示命令違反行為、早退に許可を受けるべしとの指示命令違反行為は、原告の重大な非違行為であると評価することができる。そして、前述のとおり、原告は、それまでに、本件第1けん責処分、本件第2けん責処分、本件減給処分及び本件出勤停止処分という懲戒処分を受けていることを合わせ考えれば、本件懲戒解雇は、相当な処分であるし、平等原則の見地からも適切であるといわなければならない。