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ID番号 07955
事件名 保険金引渡請求各控訴事件
いわゆる事件名 住友軽金属工業(団体定期保険第2)事件
争点
事案概要  非鉄金属部品の製造販売等を業とする株式会社Yが生命保険会社(九社)との間で従業員を被保険者とする団体定期保険を締結していたが、右契約締結に当たり被保険者の同意として個々の従業員の同意を得ず、従業員全員を組合員とする労働組合の合意しか得ていなかったものの、Yの従業員Aら三名が在職中にそれぞれ疾病により死亡したことにより右保険契約に基づきYが保険金を受領し、Aらの妻Xら三名に対する保険金全額に相当する金員の支払を拒否したため、XらがYに対し、YとAらとの労働関係において右保険契約による保険金の全部又は相当部分の支払の合意により、Aらの死亡によりYが支払を受けた生命保険金については遺族であるXらに支払われるべきものであると主張したほか、本件保険契約においてYを保険金受取人と指定する部分は公序良俗に反し無効である等と主張して、保険金相当額の支払を請求したケースの控訴審(X・Yともに控訴)。; 本件団体定期保険の効力発生要件である被保険者の同意の要件も、当該事実関係のもとでは右労働組合の同意によって有効と認められるところ、本件団体定期保険契約についての合意は、被保険者の死亡保険金の全部又は一部を被保険者の遺族に対して福利厚生制度に基づく給付に充当することを内容とするものであり、既存の社内規定に基づく給付額が右保険金によって充当すべき金額と一致するか、又はこれを上回るときは、既存の社内規定に基づく給付額で足りるが、これを下回るときは、その差額分を保険金から支払うことを意味内容として含むものであり、被保険者の遺族において、右合意の利益を享受する意思を表示したときは、保険契約者に対し、右合意に基づいて給付を請求する権利を取得するものであるとして、本件団体定期保険契約の保険金から共益費用であるAらのために支払われた保険料総額を差し引いた残額のうち遺族補償として支払われるべき金額(三〇〇〇万円)から、Xらに福利厚生制度による社内規定によって既に支払われた給付分を控除した額分についてXらの請求を認容した一審の判断が維持され、Xらの控訴については請求原因を拡張して行った遅延損害金の商事法定利率年六分の請求のみ一部認容され、Yの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
商法674条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 団体生命保険
裁判年月日 2002年4月24日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 245 
裁判結果 一審原告控訴一部認容・一部棄却、一審被告控訴棄却(上告)
出典 労働判例829号38頁
審級関係 一審/07730/名古屋地/平13. 3. 6/平成9年(ワ)2716号
評釈論文 ・労政時報3544号64~65頁2002年6月28日/水野幹男・労働法律旬報1539号6~11頁2002年11月10日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-団体生命保険〕
 引用にかかる原判決の認定によれば、団体定期保険契約の主たる目的は、福利厚生措置によって遺族に支払う弔慰金、死亡退職金、労災上乗せ補償金等の給付に充てることにあるところ、団体定期保険契約を毎年維持し続けるためには相当額の経費の支出が必要となり、保険金額が高額になるほどその経費は増大するものであり、保険契約者における団体定期保険契約の収支は、保険会社から支払われる配当金及び保険金の全額をその年度の保険料の支払に充当しても通常赤字になるものであるから、保険金額が社会的に相当な金額を超える場合には、原則として同相当額を超える部分を上記経費に充てることは許容すべきである。ただし、保険金額がさらに大きくなり、上記社会的に相当な金額の2倍を上回るときには、上記原則に従うならば、1審被告が保険金額の2分の1を超えて取得することとなり、上記団体定期保険契約の主たる目的に沿わないものというべきであるから、保険金額の2分の1の限度において上記経費に充てることを許容すべきである。そうすると、保険金額が大きくなればなるほど、保険契約者が取得する金額が大きくなるが、このことは、同取得額が保険料の支払に充当され、他方で遺族に支払われる金額も大きくなることに鑑みると、不当なことではないと解される。
 以上のとおり考えると、保険金額が社会的に相当な金額を超えるときには、原則として上記相当な金額、ただし、保険金額が上記相当額の2倍を上回るときには保険金額の2分の1が、遺族に支払われるならば、団体定期保険契約は公序良俗に反しないものと解することは、相当であるといわなければならない。〔中略〕
 引用にかかる原判決認定の事情、特に、本件各団体定期保険契約の保険金総額、1審被告の規模、福利厚生制度の内容のほか、現在の社会の状況等一切の事情を総合考慮すると、本件において、上記社会的に相当な金額はAらにつきいずれも3000万円と認めるのが相当であり、Aらにつき、個別に異なる金額とすべきものとする事情は、これを認めるに足りる証拠はない。算定基準を示していない旨の1審原告らの非難は当たらない。