全 情 報

ID番号 07957
事件名 従業員地位確認等請求事件
いわゆる事件名 奥道後温泉観光バス事件
争点
事案概要  観光バス会社Yの運輸部に所属し貸切りバスの運転手として勤務し、組合(同運輸部のバス運転手のみで構成)のそれぞれ委員長及び書記長であったX1・X2が、Yでは毎年億単位の赤字を出していたところ、X1・X2の所属する貸切りバス事業においては需要の低迷と規制緩和の下で競争が激化しそれへの対応が急務であったことから、バス運転手人員削減を図り、必要に応じて希望退職者から嘱託雇用をして運行することとされ、その人員削減としてまず希望退職者の募集が行われたが、あと二名足りなかったことから、就業規則の規定に基づき整理解雇されたため、本件解雇は整理解雇の四要件をいずれも満たしておらず無効であると主張して、Yに対し、従業員たる地位の確認及び賃金の支払を請求したケースで、Yがまず希望退職者を募り、希望者が不足のときは整理解雇するとの経営判断を行ったこと自体には、一定の理解をすることができるとしたうえで、本件解雇の後も多くの嘱託運転者を雇って貸切りバス業を営業していること等から、本件解雇とそれに先立つ希望退職者募集は不要人員の削減を目的とするものではなく、正社員であるバス運転者の賃金をカットするために行われ、更にはX1・X2を解雇するために行われたと推認する余地があること、又労働者側への説明が不十分であったこと等を総合して判断した結果、本件解雇は解雇権の濫用として無効なものと認めることが相当とされ、X1・X2の請求が一部認容された(将来分の賃金請求についてのみ却下)事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条3号
民法1条2項
体系項目 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 2002年4月24日
裁判所名 松山地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ワ) 1046 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例830号35頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 企業は、経営不振を打開するため、自らの経営判断にしたがって、事業の縮小等を行うことができ、それに必要な措置を講ずることができる。しかし、その一方で、整理解雇が、労働者の特段の責めに帰すべき理由のないところで行われ、しかも、それが労働者の生活に深刻な影響を及ぼすものであることを考えると、整理解雇を実施するに当たっては、信義則から導かれる一定の制約があると解することが適当であって、この制約を逸脱した整理解雇は権利の濫用として無効なものと解される。
 そこで、整理解雇が無効であるか否かを判断するに当たっては、〔1〕人員削減の必要性があること、〔2〕人員削減の手段として整理解雇を選択する必要性があること、〔3〕解雇基準とその適用が合理的で、手続上も妥当であること、〔4〕被解雇者などに対して誠実な説明がされていることなどの諸事情を検討し、それらを総合的に判断することが必要となる。本件では、被告の就業規則で、「事業の廃止又は、整理縮小その他会社の都合により必要を生じたとき」には社員を解雇する旨の規定(第78条3号)があって、本件解雇もこの規定に基づいて行われたものであるが、同規定を解釈するに当たっても、ここに述べたような配慮を欠かすことができないと思われる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 a 被告は、本件人員削減以前、バス運転者について人員削減措置を講じたことがなかったのに、今回、人員削減措置をするに当たっては、募集開始日の前日である平成12年1月25日に初めて観光バス組合委員長の原告X1に通知しているし、しかも、他のバス運転者に通知したのは募集開始日が始まって以降という状態であった。しかも、その募集期間は同月26日から30日までと、極めて短期間のものであった。
 また、希望退職者が20人に満たなかった場合、整理解雇を行うと発表したことに関しても、整理解雇を選択したこと自体の当否や、人選基準について、バス運転者らや、観光バス組合との間で、事前に、具体的な協議をすることがなかった。
 b しかも、被告は、希望退職者の募集が終了したその翌日には、原告らに対して、本件解雇の予告通知を交付し、その後に行われた観光バス組合等との団体交渉の場でも、具体的な資料の提供をせず、しかも、その団体交渉の継続中に、一方的に、本件解雇に踏み切っているのである。
 c このような経緯などからすると、被告は、被告のバス運転者ら、あるいは観光バス組合に対して、本件に関して十分な事情説明をしないままであったと認めざるをえない。
 たしかに、被告が主張するとおり、経理資料が社外に流出することに問題があると考えることには合理性もあり、したがって、経理資料のすべてが提示されなかったからといって、そのことで、直ちに非難できるわけではないが、しかし、そのような状況であるとすれば、被告としては、一層、丁寧に説明し、原告らバス運転者や、観光バス組合との間でも十分な協議を行う必要があったというべきであろう。ところが、被告による説明は、結局のところ、被告の経理状況が悪化していることを述べるにとどまって、20名の人員削減がされる必要性とか、そのことが被告の経営改善にどう結びついていくのかといったところについては納得しうる説明はなされていないと認められる。
 d 希望退職者の募集、整理解雇は、いずれも労働者にとって、生活の基盤を揺るがす重要な問題であり、被告が主張する諸事情を考慮したとしても、本件では、なお、労働者側への説明が不十分であったといわざるをえず、関連して、労働者側に与えられた考慮期間も不十分なものがあったと解される。
 オ 小括
 以上のとおりであって、これらのことを総合して、判断すると、その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は、解雇権の濫用として無効なものと認めることが相当である。