全 情 報

ID番号 07962
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 ヤマイチテクノス事件
争点
事案概要  水処理プラントの建設工事等を業とする株式会社Y(役員等を含め従業員六〇名前後)の取締役工場長であったXが、入社時から片道三時間以上もかかる通勤を続け昼頃出勤したり、用もないのに打ち合わせと称して本社に出勤したり、工場には本社に出社するといいながら本社にも出社せず所在不明になるなどの就業規則違反を繰り返し、工場長在任中も工場内で従業員の転落事故が発生した際も所在不明であり他の従業員に示しがつかなかったこと、本社勤務の際にも上司より注意を受けても同様の遅刻を繰り返してきたこと、又工場長在任中に消防署より塗料保管庫の設置指示を受けたが、これを放置したことから専務が厳重注意を受けたり、他の役席者に対し会社の取締役工場長という責任者としてあるまじき無責任な放言を繰り返していた事実が取締役解任後に発覚するなど、これらの行為は就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとして懲戒解雇されたことから、Yに対し、従業員たる地位の保全及び賃金の仮払いを申立てたケース。; Xの遅刻はその程度によっては出勤停止、降格、懲戒解雇の各懲戒事由となりうるとされているにもかかわらず、Yは懲戒解雇に至るまでの間、何ら懲戒処分も行っていないばかりか、約二年後に取締役に就任させるなどしており、又解雇通告書には「正当な理由なく欠勤し、あるいはたびたび遅刻早退したとき」が明示的に引用されていないこと等をあわせ考慮すれば、いまだ懲戒解雇事由となる「その程度の著しく重いとき」に該当するまでの疎明はなく、又塗料保管庫の不設置についてもいまだ懲戒解雇事由となる「その程度の著しく重いとき」に該当する旨の疎明はなく、その他の事由も同様であるとして、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用として無効であるとし、賃金の仮払いについてのみXの申立てが一部認容された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 2002年5月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成13年 (ヨ) 10090 
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労経速報1810号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 債権者の市川工場における遅刻は三年余にわたる恒常的なものであり、就業規則上、「正当な理由なく、たびたび遅刻したとき」(五一条〔1〕(イ))は、戒告又は減給事由で、その程度によっては出勤停止、降格、懲戒解雇の各懲戒事由ともなりうるとされている(前記第二の2(2))にもかかわらず、債務者において、債権者に対し、本件懲戒解雇に至るまでの間、何らの懲戒処分も行っていない(この点、債務者が提出する取締役会議事録(書証略)には、前記勤怠が取締役解任事由ともされているとも解される記載があるが、そうであるならば、前記勤怠を再度本件懲戒解雇の根拠事由とすることはできないというべきである)ばかりか、約二年後の平成一二年六月二九日には取締役へ就任させていること(前記第二の2(1))、債権者は、大阪市にある本社に、毎週月曜日の午前八時三〇分より開催される連絡会議や毎月第四土曜日に午前一〇時から開催される月例会議やその他の会議に出席しており、そのため債務者においても前記勤怠については今まで何ら問題にしていなかった旨弁解していること、また、債権者に対する本件解雇通告書には前記就業規則五一条〔1〕(イ)が明示的に引用されていないこと等を合わせて考慮すれば、前記事実が未だ懲戒解雇事由となる就業規則五一条四項(ア)の「その程度の著しく重いとき」に該当するまでの疎明はない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 前記二の3(1)ア(ア)b(会社の信用毀損行為)については、確かに、前記争いのない事実、疎明資料(書証略)及び審尋の結果によれば、債権者は、市川工場長に就任していた際、福崎消防署より消防法に基づく塗料保管庫の設置指示を受けていながら、結果的に債権者が市川工場長に在任している間には塗料保管庫が設置されなかったこと、債権者の主張によっても、債権者が、周囲の者に、「(債務者)会社がこのままでは、若い者が辞めてしまう。何も分からずに会社に入った者も、しばらくすれば会社の実態が分かってしまう」旨の発言をしたことが一応認められる。
 しかし、塗料保管庫の不設置について、債権者は、平成一三年八月に消防の基準マニュアルが納入された後それに基づいて設計図を作成し、同年九月中に消防署に持っていってチェックを受ける予定であった旨弁解している上、仮にそれが債権者の怠慢によるもので、後に債務者が消防署からそのことで注意を受けたことが、就業規則五一条一項(ア)の「自己の職責を怠り、業務上に怠慢を認めたとき」や同条二項(ウ)の「素行不良により、または不正不信義の行為をして会社の信用を傷つけ、あるいは従業員としての体面を汚したとき」に該当するとしても、その程度が重いといえなければ、同規則上、前者の事由は戒告又は減給事由、後者の事由も出勤停止事由とされているに止まるのであり、債権者に対する本件解雇通告書にも前記就業規則五一条〔1〕(ア)及び同条〔2〕(ウ)が明示的に引用されていないことをも合わせて考慮すれば、債権者の前記塗料保管庫の不設置が未だ懲戒解雇事由となる同条四項(ア)の「その程度の著しく重いとき」に該当する旨の疎明はないといわざるをえない。
 また、債権者の後記発言についても、債権者は、メーカーとしての設備を備え、技術者の要請を行わなければならない旨幹部会議等で発言するとともにA社長に進言したにもかかわらず、同社長は、製造会社の体裁を整えることについて何の興味も示さず、利益を上げることだけを考え、そのためには手段を選ばない経営方針を続けていたため、若い従業員で辞めていく者が多かったので、周囲の者に対してそれを嘆いたに過ぎない旨弁解している上、債務者の主張によっても、債権者の前記発言は他の役席者に漏らしたにすぎないとされているのであって、債権者に対する本件解雇通告書にも前記就業規則五一条〔2〕(ウ)が明示的に引用されていないことをも合わせて考慮すれば、債権者の前記発言が未だ懲戒解雇事由となる就業規則五一条二項(ウ)の「素行不良により、または不正不信義の行為をして会社の信用を傷つけ、あるいは従業員としての体面を汚したとき」にあたり、かつ同条四項(ア)の「その程度の著しく重いとき」に該当する旨の疎明はないというべきである。
 (3) なお、債務者は、本件懲戒解雇の正当性を基礎づける事実として、債権者が降格処分を受けるとともに取締役を解任された経緯をも主張するが、それらの降格処分等を受ける根拠となった事実については、すでに債権者が不利益処分を受けている以上、再び本件懲戒解雇の根拠事由とすることは許されない。
 (4) したがって、本件懲戒解雇事由について、債務者の主張を認めるに足りる疎明はないから、本件懲戒解雇は懲戒権の濫用として無効であり、本件申立てにおける被保全権利は一応認めることができる。