全 情 報

ID番号 07978
事件名 賃金請求各控訴事件
いわゆる事件名 カントラ事件
争点
事案概要  一般区域貨物運送業を目的とする株式会社Yに運転者として職種限定で雇用された大型貨物自動車の運転手Xは慢性腎不全のため休職し、その後、復職を申し出たところ、Yからは、治療に専念すべきであるが経済面で問題があればアルバイトとして週に何回か勤務してはどうかと提案されたものの、これを拒否し、その後、改めてYから産業医による診断結果(運転業務は病状悪化や交通事故惹起の可能性があることを理由に長・近距離の貨物自動車運転業務への就労は業務不可能)に基づいて復職を認めない旨の文書を交付されたにもかかわらず、XはYに出勤したため(この間、二度目の診療を受けた)、その後、組合を交えた交渉が行われるなどしていたが、結局、Xによる仮処分申立てに関してXとYとの間で和解が成立し、Xは右和解条項に基づき職務復帰したところ、XがYに対し、復職を求めたときから現実に復職するまでのYによる就労拒否は理由がなく不当であると主張して、その間の賃金及び賞与の支払を請求したケースの控訴審(XYともに控訴)。; 原審はXの復職が可能となり、その旨をXがYに対して求めたときから現実に復職するまでの賃金支払義務があるとしてXの請求を一部認容していたが、控訴審はYの職場の状況に即応しつつ、Xが運転者としての職務をすることが全くできなかったとか、あるいは、Yの職場の運営を考量に入れつつも一定の業務が可能であったといえるかどうかを検討するとしたうえで、Xが職場復帰を申し入れた時期については、運転者としての就労は不可能であるとする産業医(一度目)の診断内容に照らすと、Xが職場復帰を申し入れた時期についてYの復職を認めない判断は正当としたが、二度目の産業医の診断後については、Xは業務を加減した運転者としての業務を遂行できる状態になっていたと認めることができ、債務の本旨に従った履行の提供をしたものと認められるとして賃金支払義務が肯定され、これと異なる原判決についてその判断が変更された事例(Yの控訴が一部認容)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法11条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 債務の本旨に従った労務の提供
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
休職 / 休職の終了・満了
裁判年月日 2002年6月19日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ネ) 3995 
裁判結果 原判決変更(上告)
出典 労働判例839号47頁
審級関係 一審/07882/大阪地/平13.11. 9/平成12年(ワ)6601号
評釈論文 水島郁子・労働法律旬報1560号46~49頁2003年9月25日/野田進・ジュリスト1254号257~261頁2003年10月15日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
〔休職-休職の終了・満了〕
 第1審原告は、運転者として職種を特定して第1審被告に雇用された者であると認められる。そして、労働者がその職種を特定して雇用された場合において、その労働者が従前の業務を通常の程度に遂行することができなくなった場合には、原則として、労働契約に基づく債務の本旨に従った履行の提供、すなわち特定された職種の職務に応じた労務の提供をすることはできない状況にあるものと解される(もっとも、他に現実に配置可能な部署ないし担当できる業務が存在し、会社の経営上もその業務を担当させることにそれほど問題がないときは、債務の本旨に従った履行の提供ができない状況にあるとはいえないものと考えられる。)。
 ところで、第1審被告における運転者としての業務は、貨物自動車を運転して貨物を客先に配送するとともに、配送先で積荷の積み降ろし作業を行い、第1審被告の各営業所に戻るという業務であり、運転業務、積み降ろし業務のいずれをとっても肉体的疲労を多く伴う作業が含まれており、また、長距離運転の場合や交通事情などによっては、相当の肉体疲労を伴うことが予想される業務内容である。
 したがって、少なくとも、ある程度の肉体労働に耐え得る体力ないし業務遂行力が必要であるから、これを欠いた状態では運転者としての業務をさせることはできないといわざるを得ない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-債務の本旨に従った労務の提供〕
 これらを総合してみるとき、第1審原告は、遅くとも平成11年2月1日には、業務を加減した運転者としての業務を遂行できる状況になっていたと認めることができ、第1審原告は、債務の本旨に従った履行の提供をしたものと認められる。
 エ まとめ
 以上によれば、第1審被告は、第1審原告に対し、復職が可能となった平成11年2月1日から現実に復職した前日である平成12年1月末日までの賃金支払義務がある。
〔賃金-賃金請求権の発生-就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権〕
 平成11年2月以降の状況は前記のとおりであり、運転者としての業務は一定程度しかできない状態であったというべきである。
 そうとすると、運行管理・委員手当、精勤手当、有給休暇手当、早出・時差手当、休出手当、残業手当、乗務残業手当、出来高手当、出来高残業手当、深夜手当、乗務深夜手当、出来高深夜手当、無事故手当、長距離手当の支給を受けられたとは認め難いというべきである。 (イ) 乗務手当、大型運転者乗務手当、出来高手当については、断定することは困難であるものの、第1審原告の可能な就労状況に照らすと、一定額の支給を受けられたと考えられる。その金額の認定は困難であるが、欠勤前3か月の平均の2分の1程度と認めるのが相当である。