全 情 報

ID番号 07992
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 アンカー産業事件
争点
事案概要  金属製樹木支持装置の設計、販売等を主たる業務とする株式会社Yで環境緑化部課長代理として同部の業務、営業を統括する立場にあった者で、Yでは賞与も支給されず、将来に不安を感じ、一身上の都合によりYを退職した元従業員Xが、YからXの退職は円満退職ではないとして退職金が支払われなかったことから、Yに対し未払いの退職金の支払を請求したケースで、退職金を支給する場合として退職金規程が規定する「円満退職」とは、退職者に懲戒解雇事由があるなど当該退職者の長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為がある場合以外をいうと解すべきであるとしたうえで、Xに退職金の不支給を相当とするような不信行為があったということはできず、Yの営業内容を良く知るXが同業者に就職することによってXがYで取得した営業ノウハウ等が全く活用されなかったとまでは言い難いが、Xが積極的にYの営業データを流用したとまではいうことはできないうえ、仮にXが退職したことによってYに混乱等が生じたとしてもY自身がXの退職を承認している以上、その責任がすべてXにあるとは言い難く、これを理由にXに対して退職金の支給を拒むことはできず、Yは退職金規程に基づいて算出した退職金をXに支払う義務があるとしてXの請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
労働基準法89条3号の2
労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
裁判年月日 2002年7月19日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 8964 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1816号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 被告は退職金規程を含む社則を就業規則として労働基準監督署に届け出ており、被告は、退職金規程において退職金の支給条件を明確に定め、これに基づいて退職金を退職者に対して支給しているのであって、退職金規程に基づく退職金は、被告と従業員との労働契約の内容として労働の対価として被告が支払義務を負担する賃金に該当するものである。そして、退職金規程では「円満退職」の場合に限って退職金を支給し、懲戒その他本人の不都合により退職する場合には支給しないとの規定を設けているが、退職金規程に基づく退職金が上記のような性質を有するものである以上、これは労働基準法所定の賃金に該当するというべきで、いわゆる賃金の後払いとしての性質を有することになるし、さらに退職金規程が一条二項に「懲戒その他本人の不都合により退職の場合」には退職金を支給しないと規定して退職金不支給事由として懲戒の場合を挙げ、退職金不支給事由を限定していることからすれば、退職金規程一条二項の「円満退職」とは、退職者に懲戒解雇事由があるなど当該退職者の長年の勤続の功労を抹消してしまうほどの不信行為がある場合以外をいうと解すべきである。
 2(一) そうすると、上記認定によれば、原告は、将来の不安を感じて被告を退職し、その後A会社に入社して同社の営業活動を行っていたものであって、特に原告に退職金不支給を相当とするような不信行為があったということはできない。〔中略〕
〔賃金-賃金の支払い原則-全額払・相殺〕
 原告は、本件貸付の残金と退職金とを相殺する旨主張する。賃金全額払の原則によれば、本来賃金との相殺は認められないが、労働者側からの相殺についてはこれを認めても特段問題はない。
 そうすると、(書証略)及び被告代表者によれば、本件貸付の残金は五〇万三六〇〇円と認められ、原告の意思を合理的に解釈すれば、原告は認容された本件貸付の残金と退職金を相殺する意思であるといえるから、被告は、原告に対し、本件貸付の残金控除後の退職金残金二一五万九七五〇円を支払う義務がある。