全 情 報

ID番号 07998
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 近畿松下テクニカルサービス事件
争点
事案概要  補修部品の販売、修理、保守点検等を目的とする株式会社Yの部品管理業務に従事し、うつ病による休業を繰り返していたXが、酒を飲んでYを休むなどの勤務程度が問題となっているなかで、平成一三年三月三一日付けでYを退職したが、本来ならYの早期希望退職制度に応募する予定であったにもかかわらず、Yの違法行為によりその応募の機会を喪失させられたXの退職はYの違法な退職勧奨に応じたものとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償として早期希望退職制度に基づく特別退職加算相当額等合計約一四四〇万円の支払を請求したケースで、Xは平成一三年一月の時点(Yが全組合員に対して早期退職制度の説明をしている)で、Yにおいて早期退職制度が実施されることを認識していたにもかかわらずYを退職するまでの間に早期退職制度に申込みをし、あるいはその意思を表明することなく自らの意思で退職届を出しており、少なくともXには早期退職制度を認識してからXが早期退職制度に基づく特別加算退職金を受領することができなかったのは、Yにその原因があるとは到底いいがたく、また早期退職制度は、Yと従業員間とで締結された雇用契約の合意解除の申込みの誘因たる性質をもつものであると理解できるか、結果としてこの制度への応募者全員に個別の面談を経て希望退職者の意思を確認しているか、早期退職に関してYに特段承諾の義務があるとも認められず、またXが退職を強要され、これにより早期退職制度に応募する機会を不当に奪われたと認めるに足りる証拠もないとして、Xの請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法89条3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 早期退職優遇制度
裁判年月日 2002年8月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 9394 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1819号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-早期退職優遇制度〕
 上記認定によれば、原告は、平成一三年一月の時点で被告において早期退職制度が実施されることを認識していたにもかかわらず、被告に対してこれに申し込む意思を表明することなく自らの意思で退職届を提出しており(みずから被告に対して早期退職制度の申し込みを希望する旨の意思表示をしていないことは原告も認めるところである)、少なくとも原告には早期退職制度を認識してから被告を退職するまでの間に早期退職制度に申し込みをし、あるいはその意思をあらかじめ明らかにする機会はあったのであるから、原告が早期退職制度に基づく特別加算退職金を受領することができなかったのは、原告がこれに応募しなかったからにすぎず、被告にその原因があるとは到底言いがたい。そして、早期退職制度は、被告と従業員間とで締結された雇用契約の合意解除の申し込みの誘因たる性質をもつものであると理解でき、上記認定によれば、結果としてこの制度への応募者全員に同制度による退職が認められたが、個別の面談を経て退職希望者の意思を確認する必要があることからすれば、早期退職に関して、希望者に対し被告に特段承諾の義務があるとも認めることはできない。
 したがって、原告が早期退職制度による特別退職加算金を受領できなかったことに被告に責任があるということはできない。
 2 これに対して、原告は、原告の退職は被告による違法な退職勧奨によるものであって、被告が早期退職制度への応募の機会を奪ったと主張する。
 しかし、退職勧奨が違法であった、すなわち、原告が退職を強要され、これにより早期退職制度に応募する機会を不当に奪われたと認めるに足りる証拠はない。すなわち、被告が原告に対し、平成一三年一月末より前の時点で退職勧奨を行っていたとうかがわれる事情もないし、そのころ被告が原告に早期退職制度に応募してもらっては困るという事情もなく、仮にそのような事情があったのであれば、原告がこれに応募した段階で拒否することも十分可能であったのであるから、ことさら被告が原告をあらかじめ依願退職させなければならないものではない。原告の退職は平成一三年一月三〇日の原告の欠勤が一つのきっかけではあったが、同日原告は事情も明らかにせずに被告を欠勤し(原告はうつの症状が出た旨主張するが、原告はそのような事情を当時全く被告に対して説明しておらず、また、原告がうつ病に罹患していることは被告は承知しているのであるから、これをことさら原告が隠さなければならない事情もない)、それまでにも原告は酒を飲んで突然被告を休むことなどがあったことから、原告の上司が懲戒解雇になってもやむを得ないと考えて妻に対してまで事情を明らかにするために被告に来るように指示しており、また、被告もこれまで二度にもわたって無断欠勤等をしない旨の記載のある誓約書を被告に提出していることからすると、原告は自分の勤務態度に問題があることの認識は有していたといえるから、懲戒解雇になるかどうかはともかく、原告は自分がしたことが大きな問題となる可能性を予測して、それに先立ち、労働組合を通じて何とか退職金が支給されるような形で退職することを望み、被告もこれに応じて原告の依願退職を了承したのであって、依願退職は原告が望んだ結果に過ぎない。他にA所長やB部長が執拗に退職勧奨を行ったあるいは被告がことさら原告の早期退職制度への応募を妨害したと認めるに足りる証拠はない。むしろ、妻がC委員長に対して依願退職の時期を延ばして定年退職扱いにならないかと問いかけたこと(人証略)、原告がC委員長に定年まで働きたいと述べたこと(原告本人)、退職後に妻がC委員長に対して早期退職制度の特別退職加算金の件について尋ねてきたことからすれば、退職届を提出した当時、原告に早期退職制度に応募する明確な意思があったかも疑わしい。