全 情 報

ID番号 08000
事件名 労働者災害保証保険給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 エムシー・エレクトロニクス・立川労働基準監督署長事件
争点
事案概要  就業に関し、住居と会社との間を、住居から西武鉄道国分寺線国分寺駅までは同線恋ヶ窪駅、国分寺駅間の土手道を自転車で(所要時間約一〇分)、国分寺駅から西武鉄道多摩湖線一ツ橋学園駅までは電車で(同約五分)、同駅から勤務先会社までは再び自転車(同約三〇分)で往復していた会社員Xが、残業後午後八時半頃に退社し、同僚とともに一ツ橋学園駅へ向かう際に、会社付近にある酒屋の自動販売機でアルコール飲料(缶ビール一本程度)を購入し、飲みながら自転車を押していき、その後、通常の通勤経路にそって国分寺駅に至り、午後九時頃同駅で同僚と別れた後、自宅に向けて、国分寺駅、恋ヶ窪駅の土手道を走行中、自転車とともに土手下に転落し、外傷性の脳損傷の損害を負って意識を失い、土手下の線路際の側溝に仰向けに倒れ、翌朝発見されて病院に搬送され、入院治療することになったところ、本件災害は通勤災害であるとして立川労働基準監督署(Y)になした療養給付及び休業給付の請求が不支給処分となったため、Yに対し、右処分の取消しを請求したケース(なお同僚と別れてから翌朝発見されるまでは具体的証拠はない)で、Xは、同僚と別れた後本件災害に遭遇するまで一定時間、一定量のアルコール飲料を飲酒したと推認することができるとしたうえで、Xは通勤の経路上において通勤とは関係のない飲酒行為を行い、これにより往復を中断し、その後に本件災害に遭ったものというべきところ、その中断について労災保険法七条三項ただし書の該当事由があることを認めるに足りる証拠はないから、同条三項本文により同条一項二号の「通勤」とされないものというほかないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項2号
労働者災害補償保険法7条2項
労働者災害補償保険法7条3項
体系項目 労災補償・労災保険 / 通勤災害
裁判年月日 2002年8月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (行ウ) 228 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1814号22頁
審級関係
評釈論文 小西國友・ジュリスト1248号142~145頁2003年7月1日/西村健一郎・月刊ろうさい54巻9号4~7頁2003年9月
判決理由 〔労災補償・労災保険-通勤災害〕
 被告主張事実のうち、〔1〕平成五年八月一七日の段階において、原告が本件災害の原因は「酔っぱらって落ちた」ものであることを認めていたこと、〔2〕公立A病院搬送時に原告にアルコール臭があったことを認めることができる。
 そして、原告が本件災害当日午後八時三五分ころ勤務先会社を退社して一ツ橋学園駅に向かう途中で飲んだアルコール飲料が五〇〇ミリリットル入り缶ビール一本であれワンカップ入りの清酒一本であれ、(書証略)によれば、その体内アルコールは体重五〇キログラムの成人で長くとも五ないし六時間で分解することが認められるから、平成四年五月当時原告の体重は六七キログラムであったこと(書証略によって認める)からしても、原告が本件災害当日に飲んだアルコール飲料がこれのみであるとすれば、原告の体内アルコールはその後原告が公立A病院に搬送された翌八日午前八時四八分ころまでの約一二時間分解されずにいたとは解し難い。したがって、公立A病院搬送時に原告のアルコール臭が認められたことは、原告が本件災害当日午後九時ころ国分寺駅でBと別れて後本件災害に遭遇するまでの間、一定時間、一定量のアルコール飲料を飲酒したと推認することができるものである。
 以上の平成五年八月一七日当時の原告の発言、公立A病院搬送時に認められた原告のアルコール臭からすれば、原告は、本件災害当日、国分寺駅から帰宅途中一定時間飲酒し、その後帰宅しようとして本件災害に遭遇したものと推認するのが相当である。〔中略〕
 以上によれば、原告は、通勤の経路上において通勤とは関係のない飲酒行為を行ったもので、これにより往復を中断し、その後に本件災害に遭ったものというべきところ、その中断について労災保険法七条三項ただし書の該当事由があることを認めるに足りる証拠はないから、同条三項本文により同条一項二号の「通勤」とされないものというほかなく、本件災害は通勤による負傷とはいえない。したがって、本件災害が通勤災害とはいえないとした本件処分は適法である。