全 情 報

ID番号 08009
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 尼崎市立尼崎東高校事件
争点
事案概要  被告尼崎市(Y1)に教諭として採用され、各市立高校で一五年~三四年間勤務してきたX1~6の六名(うち三名はすでに定年退職している)が、市教育委員会教育長Y2から、転任処分を受けたことにつき、これは地方公務員法四九条にいう「不利益な処分」に当たるところ、これらは、X1らによる市立A高校におけるセクハラ事件の追及活動に対する報復目的で行われたものであり、Y2の裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であるなどと主張して、Y2に対し、同法に基づき、〔1〕本件転任処分の取消しを請求するとともに、Y1に対し、国家賠償法に基づき、〔2〕損害賠償の支払を請求したケース。; 〔1〕については、本件転任処分が地公法四九条にいう「不利益な処分」に当たるか否かは、当該処分が公務員の身分、俸給等に移動を生ぜしめるものか否か、客観的また実際的見地からみて、勤務場所、勤務内容等において何らかの不利益を伴うものであるか否かによって判断するのが相当であるとしたうえで定年退職した三名については、本件転任処分の取消しを求める法律上の利益を肯認することはできずまた残り三名についても本件転任処分は同一市内の他の高校教諭として勤務を命じたものにすぎず、X1らの身分、俸給等に異動を生ぜしめるものではないことはもとより、客観的又は実際的見地からみて勤務場所、勤務内容等において何ら不利益を伴うものではないとして、いずれの者についても本件訴えは不適法であるとして却下されたが、〔2〕については、当該転任処分が必要性や合理性を欠いている場合やこれが不当な目的で行われた場合など、社会通念上著しく妥当性を欠き、Y2の裁量権の範囲を逸脱するものと認められる場合には、当該転任処分は違法であると解すべきであるとしたうえで、A高校に勤務していたX1ら四名に対する本件転任処分は、本件セクハラ行為が問題となっていたA高校からX1らを放遂することによりセクハラ事件に関する抗議活動を封じこめて、事態を収拾する目的で行われたものであり、かつ、これに連動して残りの二名に対する本件転任処分が行われたものと推認するのが相当であり、いずれも不当な目的で行われたものであるから、社会通念上著しく妥当性を欠き、Y2の裁量権の範囲を逸脱するものであって違法であるというべきであるとして、各一〇〇万円について慰謝料請求が認容された事例。
参照法条 地方公務員法49条1項
国家賠償法1条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2002年9月10日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (行ウ) 36 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 労働判例841号73頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件転任処分が地方公務員法49条にいう「不利益な処分」に当たるか否かは、当該処分が公務員の身分、俸給等に異動を生ぜしめるものであるか否か、客観的また実際的見地からみて、勤務場所、勤務内容等においてなんらかの不利益を伴うものであるか否かによって判断するのが相当である(最高裁判所昭和55年(行ツ)第78号同61年10月23日第一小法廷判決・裁判集民事149号59頁参照)。〔中略〕
 本件転任処分は、尼崎東高校教諭として勤務していた原告4並びに尼崎産業高校教諭として勤務していた原告5及び原告6に対し、同一市内(前記争いのない事実等によれば、市立3校は尼崎市内の半径2キロメートル以内の場所に存するというのである。)の他の高等学校教諭としての勤務(担当教科に変更がないことは当事者間に争いがない。)を命じたものにすぎず、同原告らの身分、俸給等に異動を生ぜしめるものでないこと(弁論の全趣旨)はもとより、客観的また実際的見地からみて、勤務場所、勤務内容等においてなんらの不利益を伴うものでもない。
 したがって、同原告らについて本件転任処分の取消しを求める法律上の利益を肯認することはできないから、本件転任処分の取消しを求める同原告らの被告教育長に対する本件訴えはいずれも不適法であり、却下を免れない。〔中略〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 本件セクハラ行為に関する問題が新聞報道されたり、尼崎市議会文教委員会において取り上げられたりして、これが社会問題化するに至った。
 本件通知は、このような状況下で発せられたものであり、本件転任処分の内示は、年度末の3月26日以降という常識的には考えられない時期に行われ、原告X5及び原告X6に対する本件転任処分は、原告X1及び原告X4に対する本件転任処分と関連するものであり、本件転任処分とともにされた転任処分は、いずれも原告らの転任に関連して必然的に伴うもののみであった。
 以上の経緯に照らせば、原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4に対する本件転任処分は、本件セクハラ行為が問題となっていた尼崎東高校から同原告らを放逐することにより上記抗議活動を封じ込めて、事態を収拾する目的で行われたものであり、かつ、これに連動して原告X5及び原告X6に対する本件転任処分が行われたものと推認するのが相当である。
 したがって、本件転任処分は、いずれも不当な目的で行われたものであるから、社会通念上著しく妥当性を欠き、被告教育長の裁量権の範囲を逸脱するものであって、違法であるというべきである。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 原告らは、不当な目的で行われた本件転任処分によって、精神的苦痛を受けたものと認められ、これを慰謝するために要する金額は、本件転任処分に至る経緯、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、これを各100万円と認めるのが相当である。