全 情 報

ID番号 08021
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 杉本石油ガス(退職金)事件
争点
事案概要  石油ガスの配送、充てん、米の販売等を業とする会社Y(従業員数約七〇名)の従業員であったXが退職した後、在職当時、Yの組織する労働組合支部の組合員であったところ、右組合は冬季賞与の団体交渉に関連して、古米を混ぜて販売しているなどYの米の販売方法を告発する文書を顧客に郵送し、Yの社長の自宅前、本社前、取引銀行前で社長の行動を非難する集会を繰返し行うなどの行動をとっていたため、退職時に、Xが組合の行動に参加したこと(封書への宛名書、集会への参加)が退職金規定所定の退職金不支給の場合に当たるなどとして退職金が支払われなかったことから、Yに対し、右退職金及び不法行為に基づく慰謝料等の支払を請求したケースで、退職金規程において不支給事由が認められる場合に退職金を不支給とする条項がある場合に当該条項に基づき退職金を不支給にすることができるのは、退職者において所定事由に該当する行為があったことに加えて、これが永年の勤続の功を抹消するほどの背信行為であることを要するというべきであるとしたうえで、本件のX各行為はいずれも退職金不支給の理由として相当性を欠くから、これを理由として退職金を不支給とすることは認められないとして、退職金の請求についてのみ認容された事例(慰謝料請求は棄却)。
参照法条 労働基準法3章
労働基準法11条
労働基準法89条3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 2002年10月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 24190 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例837号11頁
審級関係
評釈論文 ・労政時報3569号44~45頁2003年1月17日
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 退職金規定において所定の事由が認められる場合に退職金を不支給にする旨の条項がある場合に、当該条項に基づき退職金を不支給にすることができるのは、退職者において、所定事由に該当する行為があったことに加え、これが永年の勤続の功を抹消するほどの背信行為であることを要するというべきである。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 本件文書の内容は、被告が、魚沼米又は多古米に古米を混ぜたもの、及び多古米100パーセントと表示した米に茨城米を混ぜたものを販売し、顧客をだまし続けているという主要な点において真実というべきである(日吉米を「多古米」と表記している点については、多古地区(千葉県香取郡多古町)が日吉地区に隣接した地域であること(〈証拠略〉)、被告も日吉米につき「日吉(多古)地区産」等と称していること(〈証拠略〉)によれば、上記判断を何ら妨げるものではない。)。 したがって、被告の従業員が、被告による米の不正な販売を告発する目的に基づき、本件文書を顧客に送付する行為に関与すること自体は、相応の理由があるものといえる(この判断は、同従業員がこのような米の販売に従事してきたとしても何ら左右されない。)。
 ウ そして、前記(1)の認定事実に加え、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成10年2月に支部に加入して以降、執行役員になったことはなく、平組合員の範囲を超えるような組合活動をしていなかったこと、本件行為1については、平成12年12月20日の支部の全体会議において、支部の組合活動として米の不正販売を告発する等の説明を受け、同月31日ころ、支部副委員長(当時)Cから本件文書の送付につき封筒約70ないし80通の宛名書きをするように依頼され、平成13年1月5日、支部組合員に宛名書きをした封筒約30通を交付したことが認められる。
 これらの事実によれば、本件行為1は、被告による米の不正な販売を告発する等の目的に基づくものである上、支部がした本件文書の送付行為の一部につき補助的な役割をしたにすぎないものといえる。
 エ 以上アないしウを総合すると、本件行為1は、被告に対する永年の勤続の功を抹消するほどの背信行為であるということはできない。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 上記の集会又は要請行動等の主な内容は、被告による米の不正な販売を告発し、支部執行役員2名に対する解雇の撤回を要請したものであるところ、前記(2)イの米の販売行為が、不正行為であり、顧客に対する背信行為であるといわざるを得ないこと、上記解雇の撤回を要請した方法が威圧的又は強制にわたるものとまではいい難いものであることを考えると、支部組合員が、組合活動の一環として、支部の方針に従って、これらの集会又は要請行動等に参加すること自体は、被告に対する背信行為であるとまではいえない。〔中略〕
〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 以上によれば、本件各行為は、いずれも退職金不支給の理由として相当性を欠くから、これを理由として退職金不支給とすることは認められない。原告は被告に対し、退職金支給を求める権利を有する。