全 情 報

ID番号 08055
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 パーソンズ等事件
争点
事案概要 労働者派遣事業等を目的とするY1の派遣社員としてY2で勤務したXが、〔1〕Yらによる短期間の労働者派遣契約締結の要求は高齢者の安定雇用を目的とした労働基準法14条3号に反して違法であり、それによって従来の安定した職を失い賃金相当額の損害を被ったとして、又、〔2〕Yらの面接実施等の派遣労働者特定行為やY2による業務内容を逸脱した業務命令等により精神的損害を被ったなどとして、Yらに対し損害賠償を求めたケースで、〔1〕40日以下の有期雇用契約である契約を締結することが、労働基準法14条3号に違反するとはいえず、又、〔2〕本件会合が派遣労働者の特定を目的とする行為であるとは認められないとして、請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法14条3号
労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法30条
労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法26条7項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約の期間
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2002年7月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 12011 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1834号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約の期間〕
 労基法一四条三号は、満六〇歳以上の労働者との間に締結される労働契約については、三年を超える期間について締結してはならないと定めたもので、三年以下の有期雇用契約の締結を禁止するものではないから、四〇日以下の有期雇用契約である本件契約を締結することは、何ら同法に違反するとはいえない。
 原告は、労基法一四条三号は、高齢者の安定雇用を目指した立法であり、四〇日以下の有期雇用契約は、同条の精神に逆行し違法である旨主張するが、労基法は、労働者に対する不当な身分拘束を防止する趣旨で雇用期間の上限を一年としていたところ、高齢者の一定期間の就労を確保するため、三年以内の有期雇用契約の締結を自由とするべく、満六〇歳以上の労働者について上記制限を撤廃し雇用期間の上限を三年に引き上げたものであるから、原告の主張は採用できない。仮に、原告の主張のとおり、高齢者との三年に満たない有期雇用契約は違法であるとすれば、高齢者との有期雇用契約締結において雇用期間設定の自由が制限され、かえって高齢者の就労機会が減少するおそれすらあるから、原告の主張は同条の解釈として採り得るものではない。
 また、労働者派遣法三〇条は、派遣元事業主に派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、派遣労働者の福祉の増進を図る努力義務を定めたものであるから、四〇日以下の派遣契約を締結することが、直ちに同条に違反するとはいえない。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 労働者派遣法二六条七項は、労働者派遣先に対し、派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めるべきことを定め、これに対応するものとして、派遣元指針一一項は、労働者派遣元に対し、派遣先による派遣労働者を特定する行為に協力してはならないとしている。
 前記1(3)、(4)のとおり、被告Y1社が、被告Y2社に法務専門職として原告を含む数名がいることを伝えた上、平成一三年二月一日、被告Y2社において、原告と被告Y2社の法務チ―ムの二名とを引き合わせたこと、翌二日、Aが原告に対し「被告Y2社での勤務をお願いします」旨の連絡をしていることはこれを認めることができるところ、これらの各事実は、二月一日の会合が派遣労働者を特定することを目的とする行為であったことを疑わせる事実といえる。しかし、二月一日の会合については、原告に対し「顔合わせ」であるとの説明がされていたこと、被告Y2社による原告の能力についての質問や試験などが実施されず、もっぱら被告Y2社の業務内容の説明が行われていたことと、原告が二月一日に来たときは原告が派遣されることが決まっており、原告以外に被告Y1社に法務職の派遣労働者として引き合わされた者はいなかった旨の証人Bの証言を併せ考えると、二月一日の会合が原告の採否を決めるための面接であるなど、派遣労働者を特定することを目的とする行為であったとは、なお認めるに足りないというべきである。
 なお、Aは、翌二日のEメ―ルにおいて、原告に対し、「被告Y2社での勤務をお願いします」と告げていることから、同日初めて被告Y2社を派遣先とする第一契約の申込みをしたものと認められるが(証拠略)、被告Y1社において、被告Y2社の法務チームによる原告に対する業務説明の会合の後まで、第一契約の申込みを留保していたとしても、二月一日の会合の内容が前記のとおりであった以上、同日の会合が、被告Y2社による派遣労働者特定を目的とした行為であったとはいえないというべきである。原告は、二月一日の会合の際、Bが原告の経歴を知っている様子であったこと、及び、被告Y2社から二名が出席したこと等を根拠として面接であると感じたとするが(書証略)、原告の経歴について知っていたことや被告Y2社から二名が出席したことが必ずしも「業務説明」や「顔合わせ」と矛盾し、面接を意味するとは限らないから、原告の主張は採用できない。