全 情 報

ID番号 08057
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 三菱重工業(広島製作所)事件
争点
事案概要 分会組合員であるXが賃金差別等の違法な取り扱いを受けたとして、分会が不当労働行為救済申立てを行い、中労委において分会組合員に対する昇給・進級差別について「今後不当労働行為を行わない」との和解協定が成立したという状況下で、その後もYから差別的取扱いを受けたとして、Xが定年退職後に差額賃金及び不法行為による損害賠償を求めたケースの控訴審で、一審と同様、和解協定書は将来の賃金格差を解消することを約したものではない等としてXの和解上の債務不履行に基づく主張を退けた上、Xが分会組合員であることを理由とする差別的取扱いは認められないから、賃金差別による不法行為の主張にも理由がないとしてXの控訴が棄却された事例。
参照法条 労働組合法7条1号
労働基準法2条1項
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労基法の基本原則(民事) / 労働条件の対等決定
裁判年月日 2002年7月24日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ネ) 425 
裁判結果 控訴棄却(確定)
出典 労経速報1812号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 控訴人の賃金と分会組合員でない同期同学歴の者の賃金や控訴人のいうモデル賃金との間で較差があるとしても、直ちに不当労働行為が成立するとか不法行為が成立するとはいえない。すなわち、前記認定のとおり、被控訴人は、それ以前の学歴・勤続年数を基準とする年功序列的色彩の濃い社員制度を改め、社員の能力主義・実力主義の考え方に立つ現社員制度を制定し、これが現在まで適用されており、この制度は、勤続年数という形式的な要素だけでなく、その者の従事勤務と職務遂行能力等の種々の事情を総合的に勘案した上で進級・昇格対象者が選定されることになり、一定の年限を経た者すべてをいわば自動的に進級・昇格させるという運用が行われていたのではない。そして、控訴人の進級・昇格は就業規則や現社員制度の最高、最低の範囲内で規則等に従って決定されていることは前記〔1〕【1】ないし【3】に認定したとおりである。
 したがって、被控訴人における進級・昇格対象者の選定や昇給額の決定等、労働者の勤務成績の査定は、使用者の裁量的判断に委ねられるものであり、それが合理性を欠く場合において、裁量の範囲を逸脱したものとして違法となり不法行為を構成することとなると解するべきこととなる。〔中略〕
 不法行為に基づき損害賠償の請求をする者は、不法行為の要件に該当する事実につき証明責任を負担するから、進級・昇給制度が上記のように勤務成績に基づいて行われている以上、控訴人個人が分会の組合員であることを実質的理由として、分会組合員でない労働者との間で進級・昇給について差別を受けたと主張するには、自身の進級・昇給が分会に所属しない従業員の進級・昇給等に比べて較差があることだけでなく、進級・昇給等の基礎となるべき控訴人の勤務実績ないし成績が分会に所属しない従業員のそれと隔たりがないことを個別的、具体的に立証する必要がある。
 【2】 この点について、控訴人は、分会組合員とそれ以外の者とを集団として比較して、客観的・外形的に賃金較差が存在することを証明すれば、被控訴人において、控訴人の勤務成績が標準的な社員の勤務成績と比較して劣っていることを証明しない限り、控訴人の勤務成績は標準的な社員の勤務成績と同一であったと推定されると主張する。
 しかしながら、控訴人とその他の同期同学歴の従業員の勤務成績、分会組合員とそれ以外の従業員との間(あるいは複数組合がある場合の各組合員相互間)の勤務成績が同一であること、さらには分会組合員中控訴人の勤務成績が標準以上であることは、いずれもそのように推認できる経験則はない(第二組合の結成された要因が勤務成績と関係がないからといって、そのことが第二組合組合員と分会組合員との勤務成績が均質であることを推定する根拠となるとはいえない)。また、人事考課制度によって利益を得ているのが専ら被控訴人であるとしても、それが証明責任の分配を変更する根拠となると解することはできない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 控訴人は、被控訴人には労働契約に付随する義務として、公平・公正な査定を行う義務を負うので、査定理由が明示されていない以上、控訴人が組合間差別や思想信条による差別を疑わせる一応の事情を証明すれば、被控訴人において査定の経過及び結果が合理的で公平・公正であることの証明責任を負うこととなり、本件ではその立証がなされていないから、本件和解以降になした控訴人の賃金の査定は、公平・公正な査定をする義務の違反又は査定権の濫用として違法であり、不法行為を構成すると主張する。
 【2】 しかしながら、労働者の勤務成績の査定は、使用者の裁量的判断に委ねられるものであり、それが合理性を欠く場合には裁量の範囲を逸脱したものとしてこれを違法なものとして不法行為を構成することとなるが、その事実は不法行為の成立を主張する者において主張立証すべきであり、使用者が勤務成績を査定する場合、公平無私にこれを行い裁量権を逸脱しないようすべきことは当然であるが、それ以上に、労働契約上の法律効果として、査定が裁量的判断に委ねられるべきことを否定したり、あるいは不法行為の成立要件としての裁量権逸脱について、被控訴人に証明責任を負わせるような解釈をとることはできない。控訴人の主張は採用できない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔労基法の基本原則-労働条件の対等決定〕
 控訴人は、労働条件の対等決定の例外である、使用者の一方的査定による賃金が合理的なものとして労働者を拘束するのは、それが公正公平である限りにおいてのことであり、労働者は労働条件明示義務からして、自己の賃金が公正公平に決定されたか否かを知る権利を有し、公平査定義務を負う使用者は、査定理由の開示義務を負う旨主張する。労使協約においてこれを定めて、企業内での紛争処理機構を設けるべきとの政策的提言としては傾聴すべき意見ではあるが、人事考課が他の労働者との比較を免れないものである以上は、わが国の労働慣行からして、未だこれを法律上の義務として認めることはできない。