全 情 報

ID番号 08061
事件名 退職金等請求事件
いわゆる事件名 総合労働研究所事件
争点
事案概要 雑誌の出版等を業とするYの従業員ないし取締役であったXらに対し、Yが経営再建のため退職金規定を廃止した上、再建の実現後、新たな退職金規定を協議することを求め、「本件規定を廃止し、現に有する退職金請求権が消滅することに同意する」旨の合意書を作成しているという事情のもと退職金を支給しなかったケースにおいて、本件規定の廃止は就業規則として書面化され、当該事業所の大半が知ることのできる状態に置かれていたとはいえないとして、就業規則の変更はないものの、Xらは、本件合意書により退職金支払債務を免除する旨合意したもので、この合意による免除は有効で、新しい退職金規定の制定を条件とするものではないとして、Xらの退職金請求を認めなかった事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法24条1項
労働基準法93条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金債権の放棄
裁判年月日 2002年9月11日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 5150 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1827号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い原則-賃金債権の放棄〕
 本件規定に基づく退職金は、就業規則に基づいてその支給条件が明確に規定されていて、使用者がその支払義務を負担するものであるから、労働基準法一一条にいう「賃金」に該当し、同法二四条一項本文の賃金全額払原則の適用がある。そして、使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の生活を保護する同条項の趣旨によれば、本件規定に基づく退職金を免除する旨の意思表示は、労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは、同条項に違反するとはいえないというべきであり、このことは、労働者が使用者に対し退職金を免除する旨の意思表示が、労使間の合意においてなされた場合についても妥当するというべきである(最高裁昭和四八年一月一九日第二小法廷判決・民集二七巻一号二七頁、最高裁平成二年一一月二六日第二小法廷判決・民集四四巻八号一〇八五頁参照)。〔中略〕
 原告らは、退職金免除の合意があるとしても、就業規則である本件規定が廃止されたことはないのであるから、退職金免除の合意は就業規則を下回る個別合意として労働基準法九三条により本件各免除は無効である旨主張する。しかし、労働者が就業規則に基づき発生する個別の権利について処分する行為は、労働者の一方的な意思表示によりなされる場合であれ、使用者との合意に基づきなされる場合であれ、これが労働者の自由な意思に基づいてなされたと認められる客観的な状況が存在する場合は、有効となるものであって(前掲最高裁判決参照)、「就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約」には該当せず、労働基準法九三条に反するとはいえない。