全 情 報

ID番号 08073
事件名 退職金請求事件(23806号)、損害賠償請求事件(1354号)
いわゆる事件名 パルコスペースシステムズ事件
争点
事案概要 Yを退職してレジャー事業部長としてAに出向(転籍)したXが、Yに対し、主位的には、AはYの一事業部門にすぎず独立した法人格を有しないから法人格が否認されると主張して、Yの退職金規程に基づく退職金の支払を、予備的には、Aの営業譲渡及び解散が無効であるにもかかわらず、Yがこれを有効であることを前提に手続を進めた結果、Aから退職慰労金の支給を受ける機会が奪われたと主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める本訴を提起したのに対し、YがXによる本訴提起が不当訴訟であると主張して、不法行為に基づく損害賠償を求める反訴を提起したケースで、YのAに対する支配の程度は、Aの法人格が形骸化していたと評価できるほどに強度であったとはいえず、他方、Xが提起した本訴が著しく相当性を欠くものとはいえない等として、本訴請求と反訴請求のいずれも棄却した事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法3章
労働基準法89条3号の2
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 使用者 / 法人格否認の法理と親子会社
賃金(民事) / 退職金 / 退職金の支払義務者
裁判年月日 2002年10月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (ワ) 23806 
平成14年 (ワ) 1354 
裁判結果 本訴請求棄却、反訴請求棄却
出典 労経速報1847号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-使用者-法人格否認の法理と親子会社〕
 法人格の付与は、社会的に存在する団体についてその価値を評価してなされる立法政策によるものであって、これを権利主体として表現せしめるに値すると認めるときに法的技術に基づいて行われるものである。従って、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるがごとき場合においては、法人格を認めることは、法人格の本来の目的に照らして許されないというべきであり、法人格が否認すべきことが要請される場合を生じる(最高裁判所昭和四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号五一一頁参照)。
 そして、株式会社において、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該会社の業務に対し他の会社または株主らが株主たる権利を行使し、利用することにより、当該会社に対し支配を及ぼしているというだけでは足りず、当該会社の業務執行、財産管理、会計区分などの実態を総合考慮して、法人としての実体が形骸にすぎないかどうかを判断すべきである。
〔賃金-退職金-退職金の支払義務者〕
 仮に原告主張のとおり原告が平成三年四月一日にYに入社したとしても、原告は平成五年三月一六日に同社を退職し従業員の地位を失った。原告の勤続年数は二年であるから、原告には退職金の受給資格がない。従って、原告の退職金請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
 2 退職慰労金請求権に関する不法行為の成否(争点(3)について)〔中略〕
 確かに、前記1(1)認定のとおり、Aは従来から正式な株主総会や取締役会を開催しておらず、解散決議についても同様であったと推認することができる。しかし、このような取扱いは、AがCのいわゆる一人会社であることによるものであり、Aの解散が同社の一人株主であるCの意思に基づくものであることは明らかである。また、原告は、社内りん議において、平成一二年二月二八日付けでAを解散すること及び同日付けで二店舗をD社に営業譲渡することを承認しており(証拠略)、Aの解散は役員の意向を無視して行われたものではない。従って、何らかの手続上の不備があったとしても、営業譲渡及び解散決議が違法又は無効であるということはできない。従って、原告主張の不法行為の成立は認められない。
〔賃金-退職金-退職慰労金〕
 退任した取締役に対する退職慰労金は、商法二六九条の報酬であり、定款に定めのない場合、株主総会の決議をもって取締役に対する支給額を決定して、初めて支給が可能となる。Aには、役員に退職慰労金を支給する場合の条件と金額を定めた基準が存在したが、その規定によれば、商法の規定に従い株主総会決議を経て支給することが予定されていた。ところが、Aは、原告が代表取締役を退任した当時、約一〇億円の累積損失を抱えており、原告に退職慰労金を支給する資金的余裕はなかった。このような状況下で解散決議がなされたのであるから、Bグループの会社であり一人株主であったCが原告に退職慰労金を支給する意向を有していたという余地はない。
 そうすると、仮に当時Aが解散することなく存続していたとしても、同社が原告に対する退職慰労金支給決議を行い、原告に退職慰労金を支給する可能性があったとはいえず、不法行為と損害との間の因果関係も認められない。