全 情 報

ID番号 08082
事件名 所得税更正処分取消請求事件(44号)、所得税更正処分等取消請求事件(212号)
いわゆる事件名 オプション課税訴訟第一審判決
争点
事案概要 平成8年ないし11年に、勤務先の親会社から付与されたストック・オプションを行使し、権利行使利益を取得したXは、一時所得として所得税の確定申告を行ったが、A税務署長であるYは、本件権利行使利益は給与所得に当たるとし、平成8年ないし10年分の所得税につき更正処分を行ったことに対し、Xは、本件権利行使利益が一時所得であるとし、一時所得として算出した場合の税額を上回る部分の更正処分取消しを請求した事例について、裁判所は、所得税法28条1項にいう給与所得とは、「雇用契約またはこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付」であるとし、本件権利行使利益を給与所得として課税することは、法令上の根拠がなく、また本件権利行使利益を就労の対価と見ることも出来ないとして、本件権利行使利益については給与所得ではなく一時所得とすべきであり、それゆえ、更正処分の一部を違法とし、納付すべき税額を超える部分が取り消された事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
所得税法28条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / ストックオプション
裁判年月日 2002年11月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (行ウ) 44 
平成13年 (行ウ) 212 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 時報1803号3頁/労働判例842号40頁/第一法規A
審級関係
評釈論文 一高龍司・法律時報75巻4号30~35頁2003年4月/石原忍・月刊税務事例36巻1号1~10頁2004年1月/大淵博義・月刊税務事例35巻6号1~12頁2003年6月/品川芳宣・TKC税研情報12巻2号56~68頁2003年4月/福家俊朗・判例評論536〔判例時報1828〕177~183頁2003年10月1日
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-ストックオプション〕
 本件ストックオプションそのものは、付与時までの就労に対する対価として、又は原告の長期的就労による貢献を期待し、その対価として与えられたものということは可能であり、したがって、これを給与取得として課税の対象にすることは、理論上可能であると解される。しかしながら、このように考えた場合の本件ストックオプションによる収入金額は、本件ストックオプションを取得したときにおける価額、すなわち、オプション価格となるはずである(所得税法36条2項、1項。なお、前示のとおり、同法施行令84条の規定は、本件ストックオプションには適用されない。)ところ、本件ストックオプションのオプション価格の算定とは、米国B社の株式が将来様々な値動きをする可能性があることを総合的に考慮した上で、将来の一定期間内に、一定の権利行使価格でこれを取得する権利を取得することにどの程度の経済的価値があるものと評価するかという観点から検討されるべき問題であり、いわば期待権の価値をどのように評価するかという問題として理解されるべきものである。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-ストックオプション〕
 本件ストックオプションの権利行使利益を得られるかどうか、また、得られるとしてその額がどの程度になるのかは、米国コンパック社の株価の推移という多分に偶然的な要素と、その権利を行使する原告の投資判断という、原告の就労の質及び量とはおよそ異なる要素によって定まるものであって、むしろ、本件ストックオプションの運用益と評価すべきものであり、これを就労の対価とみることはできないものといわざるを得ない(なお、給与所得に該当することが明らかな賞与の場合にも、それが支給されるかどうか、また、その額がどの程度になるかについては、企業の業績等によって左右される面があることは確かである。しかしながら、賞与が支給されることが決定された場合には、支給されるべき労働者の貢献度や勤勉性その他当該労働者の労務に対する評価と支給額との間に一定の相関関係が認められるのに対し、ストックオプションの権利行使利益の場合には、それが得られるかどうかや、その額が、およそ労務に対する評価とは関係のない要素で決定されることは上記のとおりなのであるから、ストックオプションの権利行使利益を賞与と同様のものであるとみて、給与所得性を肯定することもできないものというべきである。)。
 したがって、第2の見解のように、ストックオプションに係る権利行使に当たって、権利行使利益に相当する経済的利益が移転されているという点に着目しても、これを就労の対価とみることはできないのであって、この見解も採用することはできないものといわざるを得ない。